実際のところ、タダより高いものはある? 「どちらが得か?」を冷静に見抜くコツ

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「賢くお金を使う人」がやっていること

『「賢くお金を使う人」がやっていること』

著者
大江 英樹 [著]
出版社
三笠書房
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784837968368
発売日
2017/09/30
価格
715円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

実際のところ、タダより高いものはある? 「どちらが得か?」を冷静に見抜くコツ

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

・1万円札を一度崩すと、あっという間になくなってしまう

・「あと○○円買えば送料無料」だったので、その額に達するまでの商品を注文した

・レジ前にあるガムなどに、つい手が伸びる

・特売のボックス・ティッシュ5個パックを買って帰ったら、まだ封を切っていないものが家にあった

・つまらないテレビはすぐチャンネルを替えるけど、映画館に行くとガッカリする内容でも最後まで観る…etc.

(「はじめに 大事なお金をムダなく、もっと楽しく使うために」より)

このような経験があるとしたら、「お金の心理のワナ」に陥っているかもしれないと指摘するのは、『「賢くお金を使う人」がやっていること』(大江英樹著、王様文庫)の著者。自分は正しい判断をしているつもりでも、そんな心理につけこもうと虎視眈々と狙う「お金を使わせる仕掛け」にハマっているというのです。そこで本書においては、経済コラムニストという立場に基づき、そんな落とし穴にハマらないようにするために具体的な事例と対策を紹介しているわけです。

それは、いったいどのようなものなのでしょうか? 1章「頭のいい人は、お金を賢く使っている——「どちらが得か?」を冷静に見抜く目」から、いくつかの要点を引き出してみたいと思います。

「あと500円買えば、1時間駐車無料」といわれたら

ショッピングモールの「1時間300円」という駐車場に車を停めたあと、いろいろ買い物をしてレジで勘定したら、買い物金額の合計が1500円だったとします。ふと駐車券を見ると、「お買い物合計2000円以上は1時間まで駐車無料」の文字。そんなとき、2000円以上になるように追加で買い物をしたことがあるのではないでしょうか?

しかし、著者はこうした判断を「とても不思議」だと記しています。この時点でなにも追加の買い物をしなければ、300円の駐車料金を払ったとしても「1500円+300円=1800円」です。ところが駐車料金を無料にするために500円分余計な買い物をすると、合計額は2000円。つまりは200円余計に払ってしまうことになるわけです。

そもそも、いろいろ考えて買ったものの合計金額が1500円だったのですから、その時点で本当に必要なものは1500円分しかなかったことになります。したがって、こういう場合に追加で買った500円分の品物は、たいがい買っても買わなくてもよかったものである場合が多いということ。

「300円の駐車代が無料になるから、500円分の買い物をする」ということは、「300円を節約するために500円を使った」ことになるわけで、どう考えても不合理。「駐車料金が無料になる」という魅力的な誘いに乗って余計な出費をしてしまったということであり、“得をしたい”と思う心が強すぎると、結局は“損をしてしまう”ことになりかねないというのです。

行動経済学者として有名なアメリカのデューク大学のダン・アリエリー氏は、「『値段ゼロ』というのは単なる価格ではなく、不合理な興奮の源を生み出す感情のホットボタンである」と、その著書で述べています。

(16ページより)

たまたま入ったカフェでコーヒー無料券をもらってうれしくなり、次のその店に行ってしまうとか、通販でもう少し買うと送料が無料になるということで、余分な買い物をしてしまうと行ったことにも、同じことがいえるでしょう。つまり「無料」という言葉は、なにかを引き起こす魔力を持っているということなのだと著者は主張しているのです。(14ページより)

「特売品をまとめ買い」「定価でも1個ずつ」——本当に賢いのは?

買い物をするとき、まとめ買いをしたほうが得なのか、必ずしもそうではないのか? これはなかなか難しい問題ですが、論理的に考えていくと自ずと結論は出てくるものだと著者はいいます。そして、検討する要素は3つあるのだそうです。

1. 単価の問題

2. 使用頻度と期限

3. 管理コスト

(26ページより)

単価は多くの場、まとめ買いをすることで安くなるもの。もちろん「どの程度安くなるのか」によっても判断は異なるものの、少なくとも1割以上安くなるのであれば検討に値するといいます。しかし、そこで注目すべきが使用頻度と期限。

いくら安くなっているとはいえ、滅多に使わないようなものをまとめ買いしても意味がないわけです。宅配便をほとんど出さないのなら、ガムテープ10個セットを使い切るには何年かかるかわかりません。賞味期限や消費期限のある食品も同じで、いくら安くてもその間に食べられなければ、結局は無駄になりかねないということ。逆にティッシュペーパーのように、使用頻度が高く品質も劣化しにくい消耗品なら、まとめ買いをしてもよいことになります。

一方、なかなかピンとこないのが管理コスト。これは品物の値段のことではなく、保管するスペースのような管理コストや機会費用のことをいうのだそうです。使用頻度が低く、しかもかさばるものであったとしたら、家のなかで長期間にわたって相応のスペースを占拠することになってしまうということ。

機会費用とは経済学では重要な概念であり、「もしそれをせずに別のことをしていたら(それを買わずに別のモノを買っていたら)どのくらいのメリットが得られただろうか」ということを考えるものだとか。ひとつひとつモノを買うときはかなり真剣に考えるはずなので、普通は機会費用の概念はしっかり理解されていることでしょう。ところが、まとめ買いすれば安くなると知った途端に、その概念はどこかへ飛んで行くことに。その結果、単に価格差だけが判断基準になりがちだというのです。

このように整理して考えてみると、使用頻度の高いものでディスカウント幅が大きく、それほどスペースを取らないものであれば、まとめ買いをしておいても良いという、ごく当たり前の結論になります。(29ページより)

買い物をしているときは、その当たり前のことが判断できなくなってしまいがちですが、それは「アンカリング効果」の影響なのだそうです。最初に示された数字がアンカー(船のイカリ)になってしまい、判断に影響を与えること。たとえば果物売り場で1個400円で売られていたマンゴーが、3個だと1000円になるというような場合、どうしようか悩みながらも3個買ってしまったりするわけです。

この場合のアンカーは「価格」ではなく、3個という「数字」。もしこれが4個1300円なら4個買ってしまう、つまり個数がアンカーになってしまうことも考えられるということ。しかし本当に大切なのが、「家で食べるときにいくつあるのが適切か」という考え方であることは間違いありません。

「人は勘定ではなく、感情に左右されやすい」ものだという著者の言葉は、記憶にとどめておきたいところです。至るところに感情を刺激する落とし穴があるということを考えて、冷静に買い物に臨むことが大切だということです。(26ページより)

「タダほど怖いもの」はあるか、ないか

「無料」という言葉が私たちの心に響くことも、「選択」と関係があるのだそうです。なにかの買い物をしたり、なにかのサービスを受けたりする場合は、当然ながらその対価を支払う必要があります。当然ですが品物やサービスはひとつではなく、さまざまなお店や会社が提供しているもの。私たちはそれらの多くの商品やサービスのなかから、ひとつを選ぶことになるわけです。

しかし、この「選択する」という行為が、心理的にはかなり負担だというのです。最大の不安は、「選ばなかったなかにもっといいものがあったのではないか? だとすると自分が買ったものは値打ちが低いので、それに使ったお金は損だったのではないか?」ということ。

ところが、「無料」の場合はこれがありません。金銭的に損をすることがないので、「タダなんだから、よくても悪くてもまあいいや」ということになるわけです。しかし、ここに大きな落とし穴があるのだと著者はいいます。「無料」の響きが心地いいため警戒を解いてしまい、そこから“ワナ”にかかってしまうというのです。

典型的な例として挙げられているのが、民間企業でありながら「無料相談窓口」を開いているところ。保険や投資などの金融商品について相談しようとするなら、本当に正しいやり方は専門性を持ったファイナンシャルプランナーにしかるべきフィー(相談料)を払うこと。ところが相談料を払いたくないため、無料で相談に乗ってくれる企業などの窓口につい行ってしまいがちです。しかし「無料」だとすると、そこは一体どこから収入を得ているのかということを、しっかり考えるべきだと著者は主張します。

つまり、そのお金は、これから購入しようとしている金融商品の手数料のなかに含まれているということ。多くの金融機関は「相談無料」とうたっているものの、それは結果として高い手数料がかかる金融商品を買ってもらうため、と考えるべきだということです。もちろんそれは金融商品に限らず、ゴルフ用品会社が主催する無料のゴルフレッスンなども同じ。レッスンを受けたら、その後にかなり高い確率で、その会社の製品を買うことになるというわけです。

「無料」というのは、顧客の抵抗感をなくして商売に持ち込むためには、非常に効果的なマーケティング手法といえるでしょう。

入口がいくら無料でも、結果として割高の商品やサービスを買わされてしまったのでは、行動経済学でいう「0コストのコスト」を負担するということになりかねません。(39ページより)

「タダより高いものはない」ということわざのとおりで、「無料」につられて買ったつもりが、いつのまにか、相手の思惑どおりになっていたということもあり得るということです。(36ページより)

本書の基盤にあるのは、「人間は必ずしも合理的に動くわけではない」という考え方で話題になっている「行動経済学」。とはいえ決して難しい内容ではなく、紹介されているのは身の回りによくある例ばかり。すぐに役立てることができるので、賢いお金の使い方を無理なく身につけることができるでしょう。

メディアジーン lifehacker
2017年10月11日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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