『CRISPR 究極の遺伝子編集技術の発見』 ジェニファー・ダウドナ、サミュエル・スターンバーグ著

レビュー

1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

CRISPR(クリスパー) 究極の遺伝子編集技術の発見

『CRISPR(クリスパー) 究極の遺伝子編集技術の発見』

著者
ジェニファー・ダウドナ [著]/サミュエル・スターンバーグ [著]/櫻井 祐子 [訳]/須田 桃子 [解説]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/外国文学、その他
ISBN
9784163907383
発売日
2017/10/04
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『CRISPR 究極の遺伝子編集技術の発見』 ジェニファー・ダウドナ、サミュエル・スターンバーグ著

[レビュアー] 塚谷裕一(植物学者・東京大教授)

希望と不安、理解へ導く

 ごく近い将来、全ての暮らしと文化を大きく変えることが確実な革新的技術、遺伝子編集技術。中でも飛び抜けて操作が容易なCRISPR(クリスパー)‐Cas9(キャス・ナイン)システムは、米国の女性科学者、ダウドナ教授が発明したものだ。本書は、ノーベル賞受賞確実と衆目が一致するその本人による手記である。注目度抜群の出版だ。

 冒頭の技術解説のパートは、日本の類書に比べて専門用語が気楽に用いられている分、敷居がやや高いかもしれない。その反面、どういう研究の経緯から、この驚異的な技術の発明に至ったか、研究室内外の駆け引きなども詳細に語られていて、読み応えがある。

 後半は、この技術が近い将来、世界に及ぼす効果への不安と希望がテーマだ。現在、この技術の応用は、著者が想像もしなかったスピードで進んでいる。この技術は「高校生でもできる」くらい操作が容易にもかかわらず、あらゆる生物の、あらゆる遺伝子を書き換え得る強大な力を持っている。ということは、悪用も容易だ。実際、米国の諜報(ちょうほう)コミュニティからは大量破壊兵器の一つにも認定されている。また逆に、病気の治療にも広く活用される見込みであり、著者の言うとおり、この技術の将来は、他でもない「あなた自身の物語」なのだ。

 著者は国際会議を提案、この技術をどう使うべきか、答えを出そうと努める。しかし意見は極端から極端に広がり、コンセンサスを得ることは容易ではない。核兵器と同じで、人類がこうした技術を良い目的だけに利用できた前例もない。しかし著者が説くように、それだからこそ、専門家だけで議論し、専門家だけで責任を負うのは間違っている。全ての人がこの問題を正確に理解し、総意をもって結論を導き、そしてその責任をとらねばならない。現時点で考え得るメリットと懸案を、当事者として公平に列挙した本書は、その議論の第1歩としての必読書だろう。桜井祐子訳。

 ◇Jennifer A.Doudna=1964年生まれ。米カリフォルニア大バークレー校化学・分子細胞生物学部教授。

 文芸春秋 1600円

読売新聞
2017年10月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加