『〈日中戦争〉とは何だったのか』 黄自進、劉建輝、戸部良一編著

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〈日中戦争〉とは何だったのか

『〈日中戦争〉とは何だったのか』

著者
黄 自進 [編集]/劉 建輝 [編集]/戸部 良一 [編集]
出版社
ミネルヴァ書房
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784623079957
発売日
2017/09/30
価格
7,020円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『〈日中戦争〉とは何だったのか』 黄自進、劉建輝、戸部良一編著

[レビュアー] 奈良岡聰智(政治史学者・京大教授)

多国間関係の中で認識

 一九三七年に日中戦争が勃発してから、今年で八〇年である。大戦争の意味というのは、相当の時間が経(た)たなければ分からないようで、五〇年以上経過してから研究が盛んになるのが常である。日中戦争もその例外ではなく、近年着実に研究が進んでいる。本書は、日本、中国、台湾の研究者一三名が、国際日本文化研究センターで行った共同研究を基にした論集である。開戦から戦後に至るまでを、包括的に検討している。

 本書全体に共通する特徴は、第一に、戦争を多国間関係の中で捉える視点を鮮明に打ち出していることである。例えば、馬暁華「グローバル・ヒストリーのなかの日中戦争」の章は、戦争真っ只(ただ)中の一九四三年に、中国の不平等条約が撤廃された経緯を考察している。一九四二年に南京条約締結百周年を迎え、中国では条約改正を求める動きが高まった。戦争継続のため中国側への譲歩を迫られた結果、日本は汪兆銘政権と、英米両国は蒋介石政権と、わずか二日違いで治外法権撤廃を約束した。この戦争が、多様なアクターによって戦われていたことをよく示すエピソードである。

 第二の特徴は、戦中・戦後の連続性と変化について、重点的に分析していることである。終戦後、蒋介石政権内部には、沖縄(琉球)の中国「返還」、賠償など厳しい戦後処理を求める声が存在した。しかし、一九四九年に同政権が国共内戦に敗れたため、こうした提案は全て廃案となった。蒋介石は、旧日本軍人を主とした軍事顧問団「白団」を組織するなど、日本と和解する道を選んだ。孔子の末裔(まつえい)、実業家など、民間人が戦後の和解のために様々な動きをしていたことも、明らかにされている。

 日本、中国、台湾の間には、日中戦争をめぐる認識に相違が存在する。本書はそれを無理に埋めるのではなく、むしろ溝がどこにあるのかを直視するというアプローチを取っている。今後こうした研究と和解が一層進むことを期待したい。

 ◇こう・じしん=台湾中央研究院研究員

 ◇りゅう・けんき=日文研副所長、教授

 ◇とべ・りょういち=帝京大教授

 ミネルヴァ書房 6500円

読売新聞
2017年10月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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