『東日本大震災・放射能災害下の保育』
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<東北の本棚>奪われた自発的な学び
[レビュアー] 河北新報
東日本大震災による福島第1原発事故後、福島県中通り地方の保育園や幼稚園でどのような保育が行われてきたのか、子ども・保護者・保育者の心身や生活はどう変わってきたのか。聞き取り調査や保育者の記録などを基にまとめた。保育の役割や子どもを育てるとはどういうことなのか、放射能汚染による活動制限を乗り越えてこそ見える保育の原点が凝縮されている。
2部計9章で構成。第1部「保育現場の実態」は被災状況を示し、園長や保育者の記録から震災直後の行動、1~3年後の詳しい保育事例、子どもの姿を紹介した。
自然と触れ合い五感を通じての遊びが奪われ、行動を制限された子どもたち。ある公立保育所では、新聞紙で大きな桜の木を制作し季節感を感じられる環境をつくるなど、保育者は必死に工夫を重ねた。しかし、時間が経過すると、保育者の言葉に素直に従い、保育者に確認しないと行動できない、もめ事を自分たちで解決できない、など受動的な子どもの姿が浮かび上がる。
ある所長は「子どもが自発的に学んでいたことが震災を機に途切れてしまった」「子どもも喜ぶと思ったことが『やらせ』てしまっていたのではないかと気付かされた」と、2014年に記録している。
第2部「調査の結果から見えてきたこと」は、身体発育測定や保育者、保護者の意識の変化、支援活動の意義など、日本保育学会などが行った調査の結果を詳しく解説した。
編著者は東京福祉大社会福祉学部教授。ほかの執筆者は、郡山女子大付属幼稚園賀門康博園長ら8人。
ミネルヴァ書房075(581)5191=3780円。