『東京発 半日旅』
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宿泊なしでも十分楽しめる!日々の生活に心地良い刺激を与える大人の「半日旅」
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
ものを書く仕事をしていると、「気づいたら1日の大半を書斎で過ごしていた……」などということも少なくありません。いや、運動不足にはなるし、いろいろな意味でよろしくないことはわかっているんです。でも貧乏性なもので、ついつい目先の仕事を重視してしまって。
それでも、できる限り外に出るようにはしているのです。が、自分でもわかるのだけど時間の使い方が絶望的にヘタ。出てみたはいいけど行くところがなく、書店を眺めるとかスーパーへ行くとか、せいぜいその程度のことで終わってしまうことがほとんどなのです。
おそらくこれは、遊び心ってやつに欠けた僕の性格がそうさせるのでしょう。たとえば妻の行動パターンを見てみると、“外に出る”ということについての考え方がまったく違うしなぁ。
具体的にいえば妻の場合、知らない街に行ったとしたら、あてもなく歩いてみるらしいのです。あえて目的を設定しないことが、さまざまな発見につながっているというわけです。しかも「目的を設定しないようにしよう」とか考えているわけではなく、自然にそういう行動をしている。
「なに言ってんだ、コイツ?」
そんな声が聞こえてきそうです。そう、うちの妻が特別なのではなく、本来的な意味でいえば、そんなことは当たり前のことでしかないのです、きっと。おそらく大多数の人が、同じようなことを無理なくこなしているのでしょう。
しかし困ったことに、その一方には、僕のようなタイプの人間も少なからずいるのですわ。つまりは、目的がないと行動できないというタイプです。
なんといいますか、外出する際には「目的」が必要なのです。逆にいえば、「ここに行く!」というような目標なくしてフラフラ歩くようなことが、どうも苦手なのです。「土地を楽しむ」という意味において、とても損をしているんだろうなと思います。自分でもよくわかります。だからこそ、そういうことをさらりとできちゃう人を、本当にうらやましく感じますし。
「そうやって理屈こねてる暇があるなら、とりあえず外に出てみろや!」ってな話なんですけどね。いちいち頭で考えるから面倒なのであって、だからとりあえずは外に出てみればいいのです。最近、少しずつですがそのことがわかってきました。
近所を5分歩いたら行くところがなくなり、そのまま帰宅するなんていうことも依然としてあるのですが、それでもマシにはなってきたかな。つくづく不器用だなあと思わずにはいられませんが、当面はこのペースを続けていくしかないのでしょう。
なーんてことをグダグダと考えていたら(ほんとにグダグダだわ)、ちょうどいいタイミングで『東京発 半日旅』(吉田友和著、ワニブックスPLUS新書)という本と出会いました。
著者は、週末だけで海外旅行をするというライフスタイルを長年続けてきた旅行作家。ここ数年は、「宿泊を伴わない短い旅ながら、思い出として自分の中に残り、結果的に日々の生活にいい刺激となる」“半日旅”にも力を入れているのだそうです。
忙しい日常の中で、突然フッと空き時間ができることがある。
どこかへ行きたいけれど、泊まりがけで出かけるほど余裕はない。かといって、家でマッタリするのもなんだかもったいない。そんなとき、僕は近場でおもしろそうな場所を探して旅に出る。(「はじめに」より)
なるほど、たしかにそれは大切な発想なのかもしれません。なお、東京住まいの著者が目指すのは、おもに都内近郊のスポット。そこで本書でも、「自然・景観・庭園」「祭り・イベント・温泉」「グルメ・大人の工場見学」「神社・仏閣」「ミュージアム・記念館」「城・世界遺産・史跡」と特徴別に分けたうえで、日帰りに最適なスポットを紹介しているのです。僕も東京に住んでいるのだから、本書に出てくるスポットにはいくらでも行けるな。
ちなみに「半日」としているところにも、それなりの理由があるのだそうです。起きてから、「今日はどうしようかな」と考えながらダラダラしているうちにお昼になってしまい、慌てて家を出るというなことはよくある話。つまり実際のところ、旅する時間は短いわけです。
午後だけだったり、夕方からだったりすることもあるので、「日帰り旅」というよりは「半日旅」とでも読んだほうがしっくりくるということ。時間があまりなくても、旅は可能だと著者はいいます。たしかに、どんなに忙しくても、半日ぐらいなら自由な時間は確保できるはずです。
だから本書と出会って、僕も少し気持ちが前向きになった気がします。そこで、今回はこれを「神フレーズ」にしたいと思います。
短い旅とはいえ、旅であることに変わりはない。どこかへ移動して、観光する。食事をして、ときには買い物もする。ただそれだけなのだが、何らかのアクションを起こすことで少なからずドラマが生まれる。それらがかけがえのない思い出として自分の中に残り、結果的に日々の生活にいい刺激となる。(「はじめに」より)
このあとに続く、「短いからこそ、そのぶん旅の密度が濃くなるのだとも言える」というフレーズにも納得。そのとおりだな。半ばウケを狙って「出不精自慢」をするんじゃなく、僕ももっと積極的に外に出なくちゃ。