明文堂書店石川松任店「難題に屈する快感に浸ってください。」【書店員レビュー】

レビュー

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どんどん橋、落ちた〈新装改訂版〉

『どんどん橋、落ちた〈新装改訂版〉』

著者
綾辻 行人 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784062935517
発売日
2017/02/15
価格
842円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

明文堂書店石川松任店「難題に屈する快感に浸ってください。」【書店員レビュー】

[レビュアー] 明文堂書店石川松任店(書店員)

 本書は、作中でU君が楳図かずおを人生の師と仰いでいるのと同様に、多くのミステリ、ホラー好きが人生の師と仰いでいるだろう作家、綾辻行人の名作群の中でもトップクラスの衝撃度を誇る短篇集『どんどん橋、落ちた』の新装改訂版です。読んだことない方には是非読んで欲しい一冊ですし、旧版を既に読んでいる方はこれを機に、是非再読してみませんか、と伝えたくなる一冊です。一歩間違えれば読者の神経を逆撫でしかねない《謎解き》に屈することに快感を抱いてしまう。そんな悔しささえも魅力に変えてしまう傑作です。

(ここからは個人的な思い出話を含む、長い蛇足のようなもの。苦手な方は注意!)

 私は人生の内で本書を(旧版も含めて)3回通しで読んでいるのですが、1回目や2回目の時と今回では面白さの感じ方が違っていることに気付きました(と言っても以前読んだ時の感想がはっきりと頭に残っているわけではないのですが……)。しかし内容の大部分をほとんど忘れてしまっている自分の記憶力の無さには幻滅(毎回、新鮮という利点もある、と言い訳しておきます)するのですが……。問いに対する答えへの驚きが楽しい(本書の中にある皮肉は常に感じ取れていたものの)のは今も昔も変わりませんが、小説の《僕》の姿に自身を省みたのは今回が初めてでした。

 解説では《作者は「僕」に託して、忘れそうになっていた無邪気さを取り戻したいという思いや、一方で無邪気さに浸り切ることへの違和感や、当時の日本のミステリシーンへの屈折した思いを描こうとしており、決して「原点に立ち返る」と単純化することはできない。》と書かれていますが、これはミステリ以外に当て嵌めることができるような気がします。こういった矛盾した想いというのは、(仕事を始めとする)《何か》に慣れてきた人間なら誰もが抱える想いなのかもしれません。今の自分と昔の自分の考え方を比べてしまい、小さな痛みを感じました。……とはいえ本書は昏い感情を刺激する苦しい小説ではなく、楽しい《犯人当て》ミステリです。ちょっと(いやかなり)挑発的で、挑戦的ですが。初めて読む方は、まずこの《犯人当て》の驚きに浸ってください。

トーハン e-hon
2017年8月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

トーハン

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