『望むのは』 古谷田奈月著

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4
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望むのは

『望むのは』

著者
古谷田 奈月 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103349136
発売日
2017/08/22
価格
1,620円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『望むのは』 古谷田奈月著

[レビュアー] 朝井リョウ(作家)

多様性と生きる青春

 高校に入学する直前、小春の隣家に同い年の少年・歩が越してくる。歩はバレエダンサーで、小春に対してのみ毒舌で、母親がゴリラだ。新学期、部活動、文化祭に卒業生の歓送会など、青春小説の要素がたっぷり盛り込まれた世界の中に、ハクビシンの美術教師やダチョウの旧友がさらりと登場する。前作『リリース』では男女同権、ジェンダーレスなどをテーマに据え三島由紀夫賞の候補にもなった著者の最新作だ。

 動物のキャラクターがさらりと登場すると書いたが、差別や偏見が全くない作り物めいた世界が舞台なわけではない。皆で一つに、といった説教臭い雰囲気も、マイノリティがその生きづらさを訴えることもない。小春は、「ゴリラだ」「ハクビシンだ」と真っ当に驚くが、「話を聞いて、自分とは違うその人を理解しよう」と上から目線で接することをせず、彼らがそこにいるという現象にただただ慣れていく。そんな小春の姿勢は、多様性という言葉が市民権を持ち始め、その中でどう生きるかという段階に進みつつある私たちへの一つの回答にも見える。

 印象的な台詞(せりふ)が多い。例えば、小春が歩に対し、占い師を生業(なりわい)としている自身の祖母についてゴリラよりは普通だと言ってしまう場面。歩は冷静に答える。「うちのお母さんはもともとゴリラ」だが「小春ちゃんのおばあちゃんは、わざわざ、自分の意思で占い師になった」。珍しさは「比較にならない」。また、部員にはなりたくないが美術部の活動には参加したい小春が、それだと他の部員から不審がられるのではと不安がる場面。ハクビシンの美術教師は言う。「きみがいったいなんなのかは、きみがわかっていればよろしい」。他人と比較できない自分を、自分自身で正直に捉える。その上で結ばれていく人間関係は、異性間、同性間、人間と動物間、どれであっても健やかで眩(まぶ)しい。著者独自の試みが悉(ことごと)く成功している新・青春小説として、幅広い世代に読まれてほしい一冊だ。

 ◇こやた・なつき=1981年、千葉県生まれ。2013年「今年の贈り物」で日本ファンタジーノべル大賞を受賞。

 新潮社 1500円

読売新聞
2017年10月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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