『こわいもの知らずの病理学講義』 仲野徹著

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こわいもの知らずの病理学講義

『こわいもの知らずの病理学講義』

著者
仲野徹 [著]
出版社
春風社
ISBN
9784794969729
発売日
2017/09/19
価格
1,998円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『こわいもの知らずの病理学講義』 仲野徹著

[レビュアー] 出口治明(ライフネット生命保険会長)

病の仕組み、軽快に学ぶ

 僕は一度も入院経験がないが、友人から「そろそろ大病するぞ」と脅かされた。人は必ず病気になって死ぬのだから、病気について勉強しようと考えていた矢先に格好の快著に出合った。帯には「ボケとツッコミで学ぶ病気のしくみ」とある。関西人である僕にピッタリだ。

 本書は5章から成るが、序章は病理学の定義。病気はどうしてできてくるのかについての学問、なるほどわかりやすい。著者は、わからない言葉があれば「とりあえず『広辞苑』」と。僕もそうしているので親近感が湧く。残りの4章は、細胞、血液、がんの総論と各論。インターミッションが分子生物学(DNAや遺伝子など)。僕たちの体は250~300種類37~60兆個の細胞からできているが、病気とは細胞が傷むこと。そこで細胞の損傷、適応、死が語られる。細胞損傷の原因として最も重要なのは低酸素。老化は染色体の端っこであるテロメアが50~60回分裂してある程度以上短くなると分裂できなくなることが原因。組織に酸素・栄養を供給し二酸化炭素その他の代謝生成物を運び去る血液は体重の13分の1、血管の総延長10万キロ(地球2周半!)。血液がさらさらと流れず血栓などで塞がったら大変だ。米国初代大統領ワシントンは瀉血(しゃけつ)で死んだ(医療に輸血がとりいれられたのは20世紀の初めころ)など、トリビア情報も満載である。がんは細胞が過剰に増殖する悪性腫瘍(新生物)のことで、多くの場合発見されるまでに10年近くかかるようだ。病の皇帝、がんと闘ってきた歴史も丁寧に述べられる。

 著者は「老化と死からは逃げられない」以上、「病気の成り立ちをよく知って、病気とぼちぼちつきあって生きるほうがいい」と結論づける。その通りだと思う。本書は著者が大学の講義で使用しているロビンス「基礎病理学」の約半分をカバーしているが、本書が売れたら残りを執筆するそうだ。病気のことが実によくわかったので続編を期待したい。

 ◇なかの・とおる=1957年生まれ。大阪大大学院・医学系研究科教授。著書に『エピジェネティクス』など。

 晶文社 1850円

読売新聞
2017年10月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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