『ブレグジット秘録』 クレイグ・オリヴァー著

レビュー

7
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ブレグジット秘録

『ブレグジット秘録』

著者
江口泰子 [訳]/クレイグ・オリヴァー [著]
出版社
光文社
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784334979539
発売日
2017/09/14
価格
3,240円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『ブレグジット秘録』 クレイグ・オリヴァー著

[レビュアー] 奈良岡聰智(政治史学者・京大教授)

英EU離脱、経緯と混迷

 二〇一六年六月、イギリスは国民投票でEUからの離脱(ブレグジット)を決定し、世界中を驚かせた。いまだ離脱の条件や時期すら定まっておらず、イギリスの将来には不透明感が漂っている。なぜイギリス国民は、離脱を選択したのか。本書は、当時のキャメロン首相の側近で、EU残留キャンペーンの広報責任者を務めた著者が、国民投票に至る半年間を描き出した迫真のドキュメントだ。約六五〇頁(ページ)の大著だが、ドラマチックな展開で飽きさせない。

 今からすれば、そもそも国民投票を実施したのが混乱の原因だとも考えられる。しかし著者は、EU離脱を主張する英国独立党が台頭し、有権者の過半数も国民投票を望んでいたことから、実施はいずれ不可避だったと指摘する。二〇〇四年にポーランドなど一〇カ国がEUに新規加入して以来、EUからイギリスへの移民は増加傾向にあり、受入れの是非をめぐって、社会には深刻な亀裂が生まれていた。

 キャメロンは、EU残留のメリットを国民に説いた。専門家も、多くが残留を主張した。しかし離脱派は、「政治を国民の手に取り戻す」「EU分担金を国民保健サービスに使う」といったわかりやすいスローガンを掲げて、支持を拡大した。やがて、ジョンソン、ゴーヴら次期首相を狙う保守党の有力政治家までもが、離脱派に転じた。著者は新聞やテレビ局への働きかけを強め、SNSも駆使して懸命に対抗するが、勢いは止められない。フェイクニュースまでもが飛び交う、政権とメディアの熾烈(しれつ)な争いが、本書の最大の読みどころだ。イギリス政治がポピュリズムの奔流に呑(の)み込まれ、かくも劣化していたとは、衝撃である。

 著者は、「世界に対する不安や怒りを煽(あお)るという、今回の離脱キャンペーンが取ったシニカルな方法」以外に、私たちは政治参加の適切な方法を見つけ出せるだろうかと問いかけている。ポピュリズムが跋扈(ばっこ)する現代の重い課題である。江口泰子訳。

 ◇Craig Oliver=1969年英国生まれ。首相付き政務広報官を経て、現在はコンサルティング会社勤務。

 光文社 3000円

読売新聞
2017年10月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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