『勿体なや祖師は紙衣の九十年』
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勿体なや祖師は紙衣の九十年 山折哲雄 著
[レビュアー] 本井英(俳人)
◆句仏と虚子の深い縁
本書は全体を「序章」「終章」を含めて十一章に分かち、東本願寺第二十三世法主大谷光演(おおたにこうえん)(一八七五~一九四三年)、俳号句仏(くぶつ)の生涯をさまざまな方向から浮かび上がらせようとする。なかんずく第二章では句仏と高浜虚子との出会いを述べる。虚子の写生文「東本願寺」および新出資料「虚子宛句仏書簡」が紹介されており、読み手を引きつける。
書簡文面の翻刻が示されていないのは残念であるが、「(俳句については虚子に一歩譲るが)宗教上のことにつきましては、あなたさまより一歩上におる」云々(うんぬん)と、句仏が気焔(きえん)を上げたりするあたり、句仏の人柄が偲(しの)ばれて興味深い。
浄土真宗の宗教上の葛藤については、清沢満之(きよざわまんし)、暁烏敏(あけがらすはや)に多くの筆が費やされているが、句仏その人の「信仰」についても踏み込んで書いて欲しかった。
なお、虚子の句集『五百句』に<上人の俳諧の灯や火取虫>と句仏を詠んだ句がある。また、句仏遷化(せんげ)に際しては<立春の光りまとひし仏かな>との弔句を捧(ささ)げ、さらに昭和三十四年三月三十日、句仏十七回忌に<独り句の推敲(すいこう)をして遅き日を>との献句を認(したた)めている。
「独り句の推敲」をしているのは、「我は我」を信念とする句仏に相違ない。そして、この句こそが虚子の生涯最後の一句となったことも、上人と虚子との浅からぬ縁を証するものと言えよう。
(中公叢書・1728円)
<やまおり・てつお> 1931年生まれ。宗教学者。著書『仏教とは何か』など。
◆もう1冊
山折哲雄著『法然と親鸞』(中公文庫)。浄土宗の開祖法然と浄土真宗を開いた親鸞。この師弟の関係を解き明かす。