レジェンド作家たちのミステリ競演『7人の名探偵 新本格30周年記念アンソロジー』綾辻行人、歌野晶午、法月綸太郎、有栖川有栖、我孫子武丸、山口雅也、麻耶雄嵩
レビュー
レジェンド作家たちのミステリ競演
[レビュアー] 円堂都司昭(文芸評論家)
不可解な謎が合理的に推理され、意外な真相が明かされる。そんな展開を基本とするのが、ミステリ小説のなかでも本格ミステリと呼ばれるジャンルだ。米英作品に刺激されて江戸川乱歩や横溝正史などの先人が手がけ、日本でも発達したが、退潮期もあった。しかし、一九八七年の綾辻行人『十角館の殺人』以降、謎解きと意外性を重んじる作家のデビューが相次いだ。その波は、新本格ミステリと呼ばれた。
「新本格30周年記念アンソロジー」と銘打たれた『7人の名探偵』は、このムーヴメントの初期にデビューした作家七人が新作短編を寄せあった本だ。有栖川有栖は火村英生、麻耶雄嵩はメルカトル鮎、法月綸太郎は作者と同名の法月綸太郎という、各人のシリーズの名探偵を登場させた。山口雅也も、今年刊行した『落語魅捨理全集』の探偵役・無門道絡師を収録作に起用した。なじみの名探偵がいつも通り活躍するという、キャラクター、お約束の面白さは、本格ミステリの一つの側面である。
一方、我孫子武丸はネットの集合知で名探偵のアプリケーションが作られた状況を書いた。また、歌野晶午は、戦時下で少年たちが逃げこんだシェルターを舞台にした。いずれも名探偵というテーマにひねりの効いたアプローチをしている。お約束だけでなく、新たな意外性を求め特殊な設定に挑むのも、新本格にみられた傾向だ。そして綾辻は、自身や我孫子、法月、麻耶が在籍した京大ミステリ研の伝統である犯人当て小説を題材にした。同短編には、本格ミステリを愛する作家たちの初心が描かれている。
新本格作家の同窓会的な雰囲気もありつつ、ジャンルの特性をよく表した記念本となっている。