真山仁・インタビュー 「明日の危機」を回避せよ/『オペレーションZ』刊行記念

インタビュー

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オペレーションZ

『オペレーションZ』

著者
真山 仁 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103233237
発売日
2017/10/20
価格
1,944円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

【『オペレーションZ』刊行記念インタビュー】真山仁/「明日の危機」を回避せよ

[文] 新潮社

真山仁
真山仁

国家破綻=デフォルトに陥らないために、日本の未来を救うために、何ができるのか? 賛否両論大歓迎と語る未曾有の問題作に籠めた思いと綿密な取材が明かされる。

 ***

――『オペレーションZ』は、日本の国家予算半減という不可能とも思えるプロジェクトに挑む人々の物語です。なぜ今、この小説を書かれたのでしょうか。

 官僚の小説を書きたいと思いました。これまでも農業問題を扱えば農水省、宇宙開発をテーマにすれば文科省が出てきました。「ハゲタカ」シリーズなら金融庁や財務省です。とはいえ、そこでは官僚はあくまでも脇役です。官僚を主役にしたドラマをやりたいと思った時に、一番大事なのはお金じゃないかなと。それで財務省を舞台にしました。

――それにしても国家予算半減とは驚くべき発想です。

 日本の国家予算は、一般会計の税収が約五十兆円。なのに歳出は百兆円近い。この差を国債・公債で埋めているわけです。小泉内閣の時には、国債発行額を相当抑制していたし、麻生内閣でも歳出を八十兆円程度に抑えていました。それが民主党政権で毎年歳出が増えて、アベノミクスで完全にタガが外れてしまった。今では国公債の残高は一千兆円を超えています。でも、借金というのは、いつか返さなくてはいけないわけです。そのために、これ以上借金をしないことが重要です。ならば歳出は半分にすべきです。

――小説の中では、この状態を家計にたとえています。

 年収一千万円の高給取りのお父さんが、リストラされて給料が半分になってしまったとします。それでも今まで通りの派手な生活をしていたら、家計はどうなるでしょう。年収五百万で、一千万の暮らしはできません。身の丈に合った生活をするしかない。国だって、同じ発想をするべきではないでしょうか。

――生活費の不足を借金で賄っていたら、いずれ首が回らなくなって破産します。

 ところが、この話を財務省の官僚にすると、鼻で笑われる。いくら歳入が不足していても、国債で賄えるのだから問題ないというわけです。国内で国債を買ってくれる、国内の市場で吸収されているのに、どこに問題があるのかと。パラダイスじゃないかと。でも、これはいつか返さなければならない借金を、未来に積み上げているだけなんです。それどころか、アベノミクスは借金返済とは全く逆方向に動いています。日銀がどんどん国債を発行して、いざとなれば日銀がお金を刷ればいいんだから大丈夫だという。これは未来を食いつぶしているといってもいい。

――その問題意識が、作中の「五年後の五百万人か、今日の二人か」という問題につながるのですね。

 未来は明るいか、というテーマが、いつも私にはあります。未来をよくするために、今の大人は生きている。そうでなければ生きる資格はない。社会的動物の使命は、未来に種を遺すことですよね。目の前のことしか考えず、未来を食いつぶしている私たちは、種のルールを自分たちの欲望でつぶしていると言える。でも、先程の家計のたとえを財務省の偉い人にすると、その発想は面白い、財務省ではそんなことは考えたことがないと言われてしまう。彼らは、毎年少しずつ賢く赤字を減らしていって、いずれうまくプライマリーバランスがトントンになれば、それでいいと考えているんです。

――しかし、プライマリーバランスが均衡したとしても、積み上がった借金は減りません。

 彼ら重鎮クラスの発想は、そこまでなんですね。でも、若手の課長補佐クラスにとっては、未来はもっと深刻な問題かもしれないから、若手と議論してみてはどうかと言われて、勉強会のようなものを始めました。これが『オペレーションZ』の本当のスタートです。

   明日にも起こる危機、国家破綻

――借金を積み上げた国に明日にも起こりうる危機として、鳥肌が立つように描かれるのが、国家破綻=デフォルトです。

 国債の償還ができなくなる状態がデフォルト。いわば自己破産です。近年ではギリシャが記憶に新しいでしょう。ほかにも、チリ、ブラジル、アルゼンチン、メキシコ、旧ソ連など。これだけ国債を発行し、その一部は外国が保有している現状で、日本がデフォルトしないとは言い切れません。問題は、その危機の深刻さを誰も、どのメディアも伝えてこなかったことです。

――ギリシャの場合は、失業者が増えたり、公共サービスが止まったり、銀行から引き出せる金額が厳しく制限されたりといった状況が、当時ニュースで伝えられました。

 デフォルトの本質は、お金の動きが止まることなので、甚大な災害なのに、すぐには目に見えてこないんです。国債が償還できなくなり、国家破綻すると、貿易ができなくなります。円建ての支払いができず、クレジット払いもできなくなるので、エネルギーや資源、原材料の輸入がストップしてしまう。超円安になって、一ドル三百円とか五百円になる。そうして進むのがハイパーインフレです。電気代、ガソリン代が跳ね上がり、食料品も品薄になって高騰します。米や野菜は作れても、家畜の飼料は輸入ですから、これも立ち行かなくなる。やがては、ゴミの収集を初め、警察や消防、救急も麻痺して行くでしょう。社会の安全ネットが崩壊してしまうのです。

――国家破綻に近似したケースとして、財政再生団体となった夕張にも取材に行かれたとか。

 夕張の街は寂れてはいましたが、市民はみな堂々としてるんです。病院や学校が合併されても、何の弊害もないというんですね。消防車が一台か二台しかないのが唯一の心配だそうで。それどころか、自分たちは自治体破綻の先進地だと胸を張っている。いずれ地方の市町村はどこもこうなっていくんだからと。もちろん、日本がデフォルトしたら、これでは済まない。デフォルトの危機をどうしたら伝えられるかは、今回の小説で一番苦心して悩んだところです。

――デフォルトを回避するためとはいえ、歳出を半減したら、生活に大きな影響がでます。

 財務省若手との勉強会を始めてすぐに愕然とさせられたのですが、百兆円の歳出を半減するのは、単に五〇パーセントを切ることではないんです。歳出の四分の一は国債の償還費や利払いに充てられるので、ここは切りようがない。

――切ったらデフォルトしてしまう。

 そうなると、残りの七十五兆円から五十兆円を削減しないといけないわけです。しかし財務省関係者がいうには、公共事業費は既に目いっぱい削減されているし、防衛費も増えていない。公務員の人件費なんか、二、三割カットしても、兆単位のお金は出てこないと。では、どこを切るか。歳出に占める割合からいっても、社会保障関係費と地方交付税交付金を切るしかない。彼らに、これを切りますかときかれて、切りましょうと即答したら、絶句されました。

   賛否両論、大歓迎

――江島総理とチームOZの面々が、いかにしてこの不可能にも見える半減策を現実にしていくのか、そこのディテールとリアリティは未体験のものでした。

 財務官僚たちとの勉強会を通じて、今の日本が抱える様々な問題が明らかになりました。すべてに自己責任を押しつけるつもりはないのですが、自分たちが必要なものは自分たちで調達するのが基本です。だから、年金の不足分を税金で補填するのはおかしい。ただ、本当に困っている人を救い上げる仕組みが社会に必要です。半減を徹底的に追求していくと、それが見えてきます。

――歳出半減とデフォルトのどちらを選ぶか、現実には厳しい選択です。

 健康診断で腫瘍が見つかったようなものです。すぐに手術すれば治るが、つらいリハビリが必要になるかもしれない。でも、今のところは痛みも自覚症状もない。それでも手術しましょうといえるかどうか。政治家がそれを言うには、国民に人気があって、かつ与党が圧倒的な議席を持っていないと無理です。

――江島総理のように、それを言える政治家が今いるでしょうか。

 最初に官僚にきかれたのは、この総理がどれくらい強いのかということです。党内基盤がしっかりしているかどうか、選挙に強いのかどうか。つまり、二年くらいで替わる総理なら、どんな政策を出されても自分たちは死んだふりをしてやりすごせるというわけです。総理の言葉に国民が納得するかどうか、それがリアリティの根幹になります。江島は、国民から「俺たちを殺す気か」と怒鳴られても、正面から正直に説得しようとします。それは、今の政治家には無理です。無理なんですが、やるとしたら、争点を隠して誤魔化して、いつの間にか成立させるという方法なら、できてしまうかもしれない。この前の選挙を見ていて、そう思いました。

――江島総理の大勝負がどう出るか、日本はデフォルトを回避できるのか、結末は小説を読んでいただくしかありませんが、いずれにしてもこの問題には賛否両論が出そうです。

 賛否両論は大歓迎、万々歳です。この問題において、最大の敵は“無関心”なんです。この半減策に賛成でも反対でも、関心を持ってくれることが何よりも重要です。これは社会と直接向き合う小説です。日本の危機に対して、もっといい解決策があったら、どんどん提案していただけたら嬉しいです。

新潮社 波
2017年11月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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