AV女優消滅――“出演強要”の実例も満載の一冊

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

やはり怪しく危ない世界 “出演強要”の実例も満載

[レビュアー] 吉田豪(プロ書評家、プロインタビュアー、ライター)

 最近、某アイドルがAVデビューしたとき、撮影現場には事務所の人間が10人以上いたと聞いた。それは事務所が力を入れて売り出そうとしているからでもなくて、関係者を「総動員する理由はデビューする女優を威圧して監視し、順調に撮影を終了させるため」だそうである。

 AV女優をスカウトするとき、最初は「歌手にしてあげる」と言ってボイストレーニングに通わせたりするケースもよく聞くんだが、それもこういう理由なんだと思われる。

「契約書を出されて、スカウトマンと社長に『あのさ、まずアダルトビデオをやってもらわないと、歌手にはなれないんだわ』って横暴な感じで言われました。え? って。『とりあえずバレないしさ、お金にもなるから、とりあえず書いてよ、ハンコ捺(お)して』ってなった。えーって。(スカウトマンが『うちの在籍』と言っていた)中島美嘉とか浜崎あゆみもやっているんですか? って聞いたら、みんなAV女優やっているって。後で見せてあげるよって。私、無理です、なりたくないですってだいぶ抵抗したけど、断るのは無理でした。ボイトレの申し込みでプロフィールを書かされていて、免許証とか学生証のコピーをとられているし、実家の住所も書いちゃっている。『わかっているよね、最初にいろいろ書いたでしょ、君が飛ぶってことは家族も全員飛ぶってことだから』って脅されました。もう本当に怖いし、諦めて、震えながら契約書にサインしました。実印も捺した」

 AV強要問題が騒がれたとき、関係者は「そんなのありえない」と反論していたが、ないわけがないし、この本にはそんな実例がたっぷりと詰まっている。AVライターだった著者がなぜこんな本を出せたのかというと、いまは肩書がノンフィクションライターになって自分はもうAVの世界にいなくても生きていけると確信したからなんだろうが、これを読むと沈みかけた船から逃げ出したようにも正直感じるのであった。

新潮社 週刊新潮
2017年10月26日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク