『ねずみくんといたずらビムくん』
- 著者
- なかえ よしを [著]/上野 紀子 [イラスト]
- 出版社
- ポプラ社
- ジャンル
- 文学/日本文学、小説・物語
- ISBN
- 9784591155547
- 発売日
- 2017/08/09
- 価格
- 1,430円(税込)
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
いたずらにも創意工夫が必要 「ねずみくんの絵本」シリーズ作者 なかえよしをさん&上野紀子さんインタビュー
[文] 加治佐志津
『ねずみくんのチョッキ』の発売から43年。累計400万部を超える人気絵本「ねずみくんの絵本」シリーズに、今年8月、34作目となる新作が登場しました。タイトルは『ねずみくんといたずらビムくん』。ビムくんとは、ねずみくんの前に突然現れたいたずらっ子の黒ねずみ。さて、ねずみくんたちはビムくんのいたずらを止められるのでしょうか?
「ねずみくんの絵本」シリーズに、ねずみくんとねみちゃん以外のねずみが登場するのは、シリーズ史上、初めてのこと。ビムくんは一体どのようにして生まれたのでしょうか? 二人三脚で絵本を作り続けてこられた作者のなかえよしをさん、上野紀子さんご夫妻にお話を伺いました。
***
<突撃! ビムくんからのインタビュー>
●ビムくんからの質問その1
―― ぼくはいたずらが大好きで、ひまさえあれば次はどんないたずらをしようかって考えているんだけど、なかえさんと上野さんはいたずらって好き?
なかえさん: 毎年エイプリルフールには、ちょっとしたジョークで嘘をつくよ。たとえば、編集者に「今、会社の近くの駅に着いたので、出てこられますか」って突然メールしたりとか。実際は家にいるのにね。毎年やってるけれど、いつもひっかかる(笑)
上野さん: 私はいたずらはしません。夫婦でいたずらをして、けんかになっても嫌だし。
なかえさん: 家ではいたずらするほど知恵が回らないよね。
●ビムくんからの質問その2
―― ぼくは、ねずみくんやねみちゃんと仲良くなれると思う?
なかえさん: いたずらをしている間は難しいんじゃないかな。仲良くしたいなら、もっとコミュニケーションの取り方を考えた方がいいね。
●ビムくんからの質問その3
―― 今回ぼくは、なかえさんにたのまれてねずみくんの絵本に出てやったんだけど、また出てってたのまれることはあるかな?
なかえさん: 今のところそのつもりはないけど……。今度はたのまないのに勝手に出てきたりしてね(笑)
***
なんと、いきなりビムくんからのインタビュー! 神出鬼没のいたずらビムくん、作者のお二人を前にしてもまったく臆することなく質問していました(笑) それでは気を取り直して、なかえよしをさん、上野紀子さんへのインタビューをお送りします。
―― 最新刊『ねずみくんといたずらビムくん』では、ねずみくん以外のねずみのキャラクターが登場したことにとても驚きました。ビムくんのキャラクターは、いつどんな風にして生まれたのでしょうか?
なかえさん: 次はどんなお話にしようかと考えていたときに、ふと思い浮かんだんですよ。新しいキャラクターが登場すると、気になるでしょう? マンネリ気味の「ねずみくんの絵本」シリーズに、新しい風を吹かせたいと思ってね。名前は「BAD MOUSE(バッドマウス)」の“B”と“M”で、ビムくん。悪いねずみなんです。黒いねずみだから、「BLACK MOUSE(ブラックマウス)」でもありますね。
―― ねずみくんと違って耳が四角くて、鼻がとんがっていますね。
上野さん: 黒くて丸い耳のねずみは、他にも有名な子がいるでしょう。だから四角しかないねって、なかえが言うので、自然とこんな見た目になりました。
―― 前作『ねずみくんとおばけ』の最後に出てきたねみちゃんっぽいおばけは、もしかしてビムくんだったんでしょうか? シルエットが似ているなと思ったのですが……。
上野さん: いえ、そんなつもりは全然なくて……。『ねずみくんとおばけ』を作っていた頃は、まだビムくんの構想がなかったですから。ねみちゃんのリボンの四角のつもりで描いたんですけど、言われてみればそんな風にも見えますね。
―― 『ねずみくんといたずらビムくん』以外にも、これまで『また! ねずみくんとホットケーキ』や『へんし~ん ねずみくん』などでいたずらをテーマにされていますが、子どものいたずらについて、どのように思われますか?
なかえさん: いたずらには、2種類あると思うんですよ。いいいたずらと、悪いいたずら。悪意があってやるいたずらは、相手を傷つけたりもするから、やっぱりよくないですよね。でも、知恵を絞って工夫した、かわいげのあるいたずらっていうのもあるじゃないですか。最近では、恋人へのサプライズプロポーズなんかも流行っているでしょう? 婚約指輪をあげるのに、いろいろ工夫したりして。あれも一種のいたずらですよね。そういういたずらは、まぁいいんじゃないかなと。いたずらされた側が「やられた~」って苦笑いするようないたずらならね。そのためにはやっぱり、創意工夫が必要ですよね。
―― そういう意味ではビムくんのいたずらも、みんな困ってはいますが、かわいらしいいたずらですよね。
なかえさん: うさぎさんの耳やおさるさんのしっぽを結んだり、らいおんさんのたてがみを女の子みたいに編んだり……絵本だから、絵になるいたずらにしないと、と知恵を絞りました。
―― ねずみくんと違って、枠からはみ出て自由に動き回っているのも、ビムくんの特徴のひとつです。
なかえさん: 最初はもうちょっとおとなしかったんだけど、編集者と相談して、もっと動き回ってもらおうということになってね。「ねずみくんの絵本」シリーズは毎回、枠の色をどうしようかと困るんですが、今回はビムくんのいたずらで部分的に色を塗ってもらっちゃいました。
―― ビムくんは、今後も「ねずみくんの絵本」シリーズに登場するでしょうか。
なかえさん: どうでしょう。好評なら出てくるんじゃないですか。読者の方々からもっと出してほしいって要望をいただいたりしたら、シリーズ化なんてこともあるかも。『ビムくんのチョッキ』『りんごがたべたいビムくん』『また! ビムくんのチョッキ』って、30冊を超えるシリーズになったりしてね(笑)
―― いよいよクリスマスシーズンという時期なので、シリーズ19作目の『ねずみくんのクリスマス』についてもお聞かせください。長く続いてきた「ねずみくんの絵本」シリーズの中でも、クリスマスのお話というのはこの作品ひとつだけですね。
なかえさん: 長年シリーズを続けていると、だんだんネタが切れてくるんですよ。そうすると編集者が、クリスマスとか誕生日とか、海とかどうですか、なんて感じで、いろいろテーマを提案してくるわけです(笑) それでクリスマスにしたんじゃなかったかな。
―― サンタクロースやプレゼントのお話ではなく、クリスマスツリーの大きさ比べをするあたりが、「ねずみくんの絵本」シリーズっぽいなと思いました。
なかえさん: もう14年も前につくった作品だから、どうしてそういう内容になったのか、正直あんまり覚えていません(笑) でもサイズがどんどん大きくなっていくっていうのは、確かにねずみくんならではのスタイルですね。
―― ツリーの飾りをよく見ると、靴下の形が持ち主によって違っているのがわかります。
上野さん: そうですね、あひるくんなら水かきのある形だったり、うさぎさんならニンジンの色だったりと、工夫した覚えがあります。そんな細かいところまで見ていただけると、作者としてはとてもうれしいですね。
―― 最後はしかけつきのページで、大きなクリスマスツリーが登場しますが、キラキラの豪華なツリーではなく、みんなのがんばりが伝わるツリーというのが印象的でした。
なかえさん: 派手なツリーにすればいいって話じゃないですからね。さっき、いたずらにも創意工夫が必要って話をしましたけれども、これも同じなんですよ。キラキラの飾りがなくたって、工夫次第で特別なクリスマスツリーができあがる。それに、そういう方がより気持ちが伝わるんじゃないかな。
上野さん:「ねずみくんの絵本」シリーズは、そんな風に“気持ち”を描いたものが多いですね。だから、それがちゃんと伝わるように、表情や動きにはかなりこだわって描いています。
なかえさん: 絵も文章も極力シンプルになるように心がけていますが、そのシンプルさの中に、目に見えない大切なことをいろいろと描き込んできました。読者の皆さんにもそれが伝わっていたらうれしいですね。
―― 『ねずみくんのチョッキ』が発売されたのが1974年。再来年には45周年を迎えます。親、子、孫の3世代にわたって愛されるロングセラーとなりましたが、どんな風に感じていらっしゃいますか。
上野さん: こんなに続くだなんて、思ってもみませんでした。小さい頃に読んでもらって今は子どもに読んでいる、という話を聞けるのは、とてもうれしいですね。
なかえさん: 自分たちとしてはただただ一冊一冊、作ってきただけなんですけどね。気づいたら40周年を迎えていた、という感じ。何でもこつこつ続けていくと、積み重なっていくものですね。
―― 『ねずみくんといたずらビムくん』に続く次回作のご予定は?
なかえさん: そろそろ考えなくちゃいけないんですが、まだアイデアが出てきていません。年内には案を出そうと自分で締め切りを設けているので、もう少し追いつめられれば出てくるんじゃないかな(笑) ねずみくんは小さくて、目立たない存在かもしれないけれど、いつも一生懸命がんばっている……その部分は今後も変わらないと思います。これからもそんなねずみくんを見守っていただけたらうれしいです。
―― なかえさん、上野さん、どうもありがとうございました!