『お父さんクエスト』刊行記念 小山健さんインタビュー

インタビュー

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お父さんクエスト

『お父さんクエスト』

著者
小山 健 [著]
出版社
ポプラ社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784591156117
発売日
2017/10/12
価格
1,296円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『お父さんクエスト』刊行記念 小山健さんインタビュー

[文] ポプラ社編集部

『お父さんクエスト』刊行記念 小山健さんインタビュー

「WEB asta」にてご愛読いただいていた「お父さんクエスト」が、WEBで連載していた29話に大幅な描きおろしを加えて、好評発売中! 刊行を記念して、作者の小山健さんにお話を伺いました。

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お父さんがお父さんのために描く「お父さんクエスト」

── 2017年1月から当サイトではじまったWEB連載がついに書籍化ですね。心境はいかがですか?

う〜ん。連載初期の作品は、まだ慣れてなさが出ていたような気がしますね。最初の頃は、ただあったことを順番に描いていたんです。だけど、それじゃあただの日記だな、と思って。何話目からかちゃんと構成を考えて、もっと楽しく読んでもらえるように、という編集目線を意識しました。なので、最初のほうは一話ごとのテーマがなんかぼやっとしているんですよ(笑)。その辺りはちょっと大目に見てもらいたいですね。

──反響はほとんどが女性からで、奥さんであるさち子さんへの共感だったそうですね。

もっと男性からの反響もほしいんですけどね(笑)。今は女性から「さち子さんの気持ちわかるわ〜」といった感想を多くいただくんですが、僕としては、わりと男性に向けて「みんな頑張ろうな」という気持ちで描いているので。そんななかでも、「お父さんクエストを読んで、同じような立場の人がいるんだなと思い子作りに励んだら、子どもができました」とメッセージをくれた方がいて、それはうれしかったですね。
本当はお父さんに読んでもらって、もしくはお父さんが奥さんに読ませて、「お父さんにもいろいろある」と知ってほしいんです。この本は肩身が狭いお父さんの、味方だと思ってもらえれば。

最初は連載のタイトルをどうするかでとても悩みました。「育児」とか「保育」とか、わかりやすい単語を入れたほうが売れるとは思うんですけど、あまりにも読者に寄っていく感じは、カッコよくはないなと思って。父として日々のタスクをこなしていく様子は、昔のドラクエみたいだなぁと思い、このタイトルになりました。それに合わせて内容もゲームっぽくしている感じですね。

──単行本では大幅な描きおろしに加えて、さち子さんの単独インタビューも掲載されます。

きっと「漫画ではああ描かれているけど、本当は……」みたいな印象になると思うんですが、これが裏側の真実という訳ではない、というのは先に言っておきますね(笑)。
実はあのインタビューは、僕のチェックがほとんど入っていないんですよ。僕がしっかりチェックした奥さんのインタビューは、なんかちょっと気持ち悪いな、と思って。
だから、内容的に「あれ?」と思う部分も「その日本語は大丈夫か、さち子」という部分もそのまま載っています。
あと、こういうインタビューをすると「なんだかんだ言っても、夫には感謝してます」みたいな感じになると思ったんですが、なっていないんですよね、さち子は。なんなら「夫の好きなところ」とか、引き出そうとしてくれているんですけど、誘導尋問に負けてないですよね。いい話風にまとまってないところも、非常にさち子らしさが出ていると思います。

『お父さんクエスト』刊行記念 小山健さんインタビュー

あくまで描くのは「小山家の日常」

──さち子さんが妊娠に至るまでや、父になってからの日々の葛藤などが赤裸々に描かれています。これらのエピソードを描くうえで意識したことはありますか?

「子どもがこんなかわいい行動をした!」といった、ほっこりエピソードはもういいかな、というのは最初から思っていましたね。そういうのはほかの女性漫画家さんが、たくさん描いてくださっているので、僕はお父さんになって感じたことを描こう、と。だから、お父さんクエストは育児本の皮を被った独白本なんです。育児漫画だと思って買った人には、ちょっと申し訳ないですけど(笑)。

だけど、そのぶん「奥さんのこんなところが嫌なんだよなぁ」と、ただ愚痴るだけの内容にはならないようにしました。それと、単なる幸せアピールになるのもあかんな、と。それよりも、七転八倒してもがいている姿をそのまま描いたほうがいいと思ったんです。
今までは二人でうまくやってきていても、子どもが生まれるという大きな変化によって、ぶつかり合いが増えました。僕自身、ヒントを求めて育児エッセイや夫婦漫画などを読むこともあるんですが、どれもすごく幸せそうなんですよ。「大変なこともあるけれど、なんだかんだで乗り越えました」みたいなのを読んでいると、うまくいっていないこっちが「あ、ダメだ」と辛くなってしまうこともあったんですよね。

だから、お父さんクエストには「ダメな日」というケンカをしても、乗り越えていないというか、何も解決しないまま終わる回を描いたんです。これを描くのはなかなか勇気がいりました。でも、絶対にきれいに終わらない日もあるじゃないですか。うやむやになったまま、でも同じ家に住んでいるし家族なわけで、なんとなく日常に戻っていく……みたいな。この本は「家庭がうまくいくハウトゥー本!」のようなものではなく、「こんなことあるよね」という、あくまでも等身大の小山家を描くことで、傷を舐め合おうとしているんです(笑)。

──それ以外に、連載のなかで一つ軸として持っていたものがあれば教えてください。

結婚したらおちんちんがないフリをしなきゃいけないんですよね、家庭でも外に対しても。「いや、もう僕お父さんなんで、別にそんな欲求とかもないですし」というフリをしなきゃいけない。そういう圧力をどこからか感じちゃうんですけれども、それを無視することですね(笑)。

子どもができたとか、結婚したからって急に男性的な欲求がなくなるわけじゃない。据え置きですよ。お値段据え置きのままで、父親になりますからね。でも、そうするとやっぱり「さち子さんがかわいそう」とか、「私がさち子さんだったら嫌だ」といった感想が届くこともあります。だけど『お父さんクエスト』は「うちの場合はこう」というのをそのまま描いているだけなんです。そこにはさち子の性格や、僕たち二人の間ではこれは許される、という独自ルールが前提にあります。それに、さち子はわりと冗談が通じるほうなので、「私がさち子さんだったら」とかじゃなく、うちの家庭ではオーケーなんだよ、というのがわかってもらえると(笑)。

『お父さんクエスト』刊行記念 小山健さんインタビュー

すべての「お父さんクエスト」に挑む人へ

──世間のお父さんたちに伝えたいことはありますか?

「お互い大変な時代にお父さんになっちゃったね〜」ってことですかね。
ちょうど、さまざまな価値観が見直されている変換期で、めっちゃ大変な時代を生きているけど、臨機応変にいきたいね、と(笑)。
世代的に僕も含めて、いまお父さんになる人らって、時代的にはまだ昔ながらのお父さんを見て育ってきた人が多いと思うんですよ。関白なお父さんと、エプロンして家事をするお母さん……のような。だけど、いざ自分がお父さんになるのは現代。当たり前だけど、当時とは価値観が違っている。僕らが見ていたのはもう常識ではないと。
朝ゴミを捨てに行くのを任されて複雑な顔をするお父さんのCMが炎上してましたけど、そういうCMが今でる理由も分かりますし、批判される理由も分かります。子どもの世話は、奥さんに褒められるためにするんじゃなくてもう、ただ、する。手伝うとかでもなく、するものだっていうのを父親が分からないといけないんですよね。難しいと思うんですけど、やらなくちゃいけない。アップデートをしなくちゃいけない。
ただ、この話は全員に当てはまるものでもないと思っています。なかには昭和の古き良き夫婦関係を良しとするお母さんもいると思うので、空気を読んで、相手に合わせて、各家庭のあり方を模索していかなきゃいけないですよね。

──最後に、読者の方々にメッセージをお願いします。

夫婦一対一だと話しにくいことも描いているので、この漫画をクッションに「あんたもこうなん?」みたいな話が各家庭であがったらいいですね。
あとは、余白なし、使い回しイラストなし、描きおろし作業に僕の夏休みを捧げた一冊なので、その辺りも注目していただければ……。これはもう、買ってくれる人への感謝の気持ち一点のみで描いているので、ギャラ無しなので(笑)。

構成・木村衣里(プレスラボ)

ポプラ社
2017年10月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

ポプラ社

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