おまじないスキルがアップする本

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お咒い日和 その解説と実際

『お咒い日和 その解説と実際』

著者
加門 七海 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784041049129
発売日
2017/07/28
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

おまじないスキルがアップする本

[レビュアー] 辛酸なめ子(漫画家・コラムニスト)

 これまでにも加門七海氏の霊的な著書は拝読していましたが、今回は女心を掴まれる「おまじない」がテーマ。たぶん女性なら誰もが一度は通る道です。小学校五年生の時、「好きな人と席が近くなれるおまじない」をこっそり実践していたら、当時好きだったAくんと席替え三回連続、隣やナナメの席になって、さすがにおかしい、という疑いの目で見られたことがありました。いい大人になった今は、恋愛のためにおまじないをする機会はなくなりましたが、大祓の詞を唱えたり、仏様の真言やヨガのマントラを唱えたり、陰陽師に呪符の書き方を習ったりと、ディープな方向に進んでいます。私に限らず、女性はある程度年を重ねると、だんだん魔女に近づいていくように思います。この『お咒い日和』には、そんなおまじない上級者が読むべき深遠な知識が満載です。『お咒い日和』の、「咒」という字面の怖さが、まず、読者を試しているようです。

 最初に、加門氏は言霊の力について書いています。日本人は縁起の悪い言葉を排除するいっぽうで、魔よけのためにわざと悪い言葉を使うことがあったそうです。「愚息」「豚児」「粗品」など。これは魔物が寄ってくるのを防ぐ策だったとか。自分のペンネームも魔よけになっているかもしれないと、一縷の希望が芽生えました。

「結ぶ・折る」といった行為にも神秘的な力が働きます。とくに祈りを込めて折った折り鶴には念が宿っているそうで……某ホテルチェーンが繁盛し、次々とホテルを増やしているのも、客室に折り鶴を置くというおまじないの結実かもしれません。この項を読むと、これから気軽に折紙ができなくなります。

 髪、爪、目、口、息、歯、性器、etc.……、身体のパーツにも呪力が宿ります。毛髪はよく呪いに使われ、生霊や死霊が出現する時も髪を残していったりします。気のせいかもしれませんが、以前、人毛の付け毛を使用したら体が重くなり、気味が悪くて付け毛を処分したことが。黒髪にはネガティブなものも宿りやすい気がします。

 加門氏によると「あっかんべー」と舌を出すことでも魔よけになるそうです。ここでふとよぎったのは、おさわがせ系のセレブや芸能人の写真(例えばマイリー・サイラスなど)。彼女たちは写真を撮る時、なぜかよく舌をベローンと出しています。いきがっている挑発的な行為かと思ったのですが、この項を読んでそれだけではなかったかも、と思いました。彼女たちなりに、魔界の力に必死に抵抗しようとしていたのでしょう……。

「遊び」のページでは、日本古来の遊戯にひそむ霊力について綴られています。「かごめかごめ」「影踏み鬼」など、日本には怖い遊びがたくさん伝わっていて、日本人の霊力を高める通過儀礼でもあったのかもしれません。子どもたちが外で遊ぶことが少なくなり、スマホにばかり向かってしまうのは、日本の磁場を弱体化させることにつながりそうだと危惧しました。

 神道で重要な役割を果たしてきた「大麻」についての考察を拝読すると、むやみに大麻を悪者扱いすることで、日本の国力がさらに下がってしまっているように感じます。「人の生活を支え、神を支え、魂をも守ってくれる」すごいパワーを持つ植物なのです。日本人はとくに大麻のトリップ作用は重視せず、聖なる恩恵を享受してきたそうですが、大麻はGHQの主導で取り締まられるようになってしまいました。これも日本を弱める陰謀か……。

 など、「お咒い」は、古代の叡智の結晶でもあります。この本を読んだ人は、それを後世に受け継いでいかなければならない、というおまじないをかけられたようです。すでにおまじないが始まっているのは、加門氏の力強く、明晰な文章です。「マジナイでも呪いでも祈願でも、迷いは持たない方がいい」と、書かれている通り、一切の迷いを感じさせない文章。読んでいてハマっていくのもおまじない、そして本が売れるのもおまじないの力でしょうか……あやかりたいです。

KADOKAWA 本の旅人
2017年8月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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