『動物写真家という仕事』 前川貴行 写真・文

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動物写真家という仕事

『動物写真家という仕事』

著者
前川貴行 [写真]
出版社
新日本出版社
ISBN
9784406061629
価格
2,808円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『動物写真家という仕事』 前川貴行 写真・文

[レビュアー] 服部文祥(登山家・作家)

悩みつまずき通じ合う

 〈何かをしなければならないとだけは漠然と思っていたが、何をするべきかはさっぱり分からない。(中略)安いリスクで気を紛らわすだけの悶々(もんもん)とした日々を過ごしながら、いつか降りてくるはずの衝撃的なひらめきを、面倒なことから逃避しつつ、ひたすら待っていた。〉

 1970年前後に生を受けた者が青年になる頃、こんな傾向が強かったのは確かではないかと思う。バックパッキングやアウトドアの流行に乗り、旅に出た青年の手にはカメラがあった。写真に興味を持ち、多くの写真家の作品に触れ、星野道夫にたどり着く。待っていたひらめきに出会ったのだ。

 まず有名動物写真家の助手になる。わずかな給料とバイト代では費用が足りず、借金をしてアラスカへ。体力に任せ、リスクを顧みずに飛び回り、シャッターを押す。

 ホッキョクグマからブラウンベアー、ハクトウワシ、カリブー。撮るのは一瞬だが、待つのは長い。接近するために野外活動の技術を上げ、動物の生態を学び、観察する。人と動物には通じ合う接点があると確信して行く。

 その確信を作品に写し込めるか、自分との真剣勝負の場として、アラスカの次に選んだフィールドは日本。ナキウサギ、ヒグマ、イノシシ、サル、古来種のウマ。一見地味だが、ガイドの付いた海外撮影ツアーと違い、取材は手作りである。思い描いていたシーンに出会うたった一つの方法は、身ひとつで動物に迫る小さな努力を積み重ねること。

 精神と体力を健やかに保ち、最低限の生活費以外はすべて取材費につぎ込む。一つの撮影行の先に見えてくる可能性から、また一つを選び、次の取材へ。どちらかと言えば朴訥(ぼくとつ)と語られる、動物たちとの独特の間のとり方や、写真表現へのこだわりには、ひとりの青年が悩みつまずきながらも、ゆっくりと確かに動物写真家になっていく姿が現れている。

 ◇まえかわ・たかゆき=1969年、東京都生まれ。動物写真家。2008年、日本写真協会賞新人賞。

 新日本出版社 2600円

読売新聞
2017年10月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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