『希望を蒔く人 アグロエコロジーへの誘い』 ピエール・ラビ著

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希望を蒔く人

『希望を蒔く人』

著者
ピエール・ラビ [著]/天羽 みどり [訳]/勝俣 誠 [解説]
出版社
コモンズ
ジャンル
哲学・宗教・心理学/哲学
ISBN
9784861871412
発売日
2017/07/05
価格
2,484円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『希望を蒔く人 アグロエコロジーへの誘い』 ピエール・ラビ著

[レビュアー] 長島有里枝(写真家)

地に足のついた生き方

 アグロエコロジー(農生態学)の第一人者であるピエール・ラビさんへのインタビューをまとめた本書を読めば、環境破壊が進み、争いごとが絶えず、政治に希望が持てない世界を憂える人の心にも一縷(いちる)の希望が芽生えるはずだ。農生態学と聞くと理系の難解な問題かと思うが、実際は生き方の選択肢についての本だ。

 ピエール・ラビは一九三八年(第二次世界大戦勃発の前年)にアルジェリア西部の小村でイスラム教徒の家族に生まれ、フランスによる植民地支配への抵抗運動が高まっていた時期にフランス人家庭の養子として育った。カソリックに改宗し、成人後はパリで働き始めるが、ネクタイを締めて通勤電車に揺られる暮らしに疑問を抱き、妻のミッシェルとフランス中南部のアルデシュ県に移り住む。しかし、工業化された大規模農家の実態を目の当たりにした彼は有機農業に着手し、やがて農薬の使いすぎで土地に問題を抱えた近隣農家にも、堆肥(たいひ)を使った有機農法を教えることとなる。環境にも人にも有益な農業実践から始まった彼の活動は現在、社会運動とも言えるかたちで世界中に広まっている。

 資本主義社会は、半永久的な経済成長を前提としている。ラビさんはそのような社会のありかたに異議を唱え、オルタナティブを模索する。フランスでは肌の色によってヨーロッパ人と見なされず、故郷のイスラム社会にも戻れないマージナルな立場にあった彼だからこそ、インド哲学やネイティブアメリカンの思想にも影響を受けながら、バックグラウンドに固執しない独自の思想を深めることができたのだろう。どれほど優秀なAIが開発されても、わたしたちの知能や意識は身体の持つ物質的な限界から逃れられない。意識が身体を通じて得た刺激への反応である限り、わたしたちの幸せは肉体の居場所である地球のコンディションに左右される。地に足のついたラビさんの考え方はわかり易(やす)く、強く共感できるものでもある。天羽みどり訳。

 ◇Pierre Rabhi=フランスの農民作家、思想家。著書に『良心的抵抗への呼びかけ』など。

 コモンズ 2300円

読売新聞
2017年10月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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