『アナログ』
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「理想の恋愛」がここにある 東国原英夫
[レビュアー] 東国原英夫
ビートたけし
ドキドキをなくして30年たつ私からすると、もはや恋愛はボケ防止のツールとなりつつあります。
それなのに、この小説を読んでいるときには、主人公になりきって純愛にのめりこんでしまいました。悟になりきった私が待つ「みゆき」は、若い頃の吉永小百合さん、石田ゆり子さんかな~。
携帯電話が普及したいま、待ち合わせなんて場所や時間をちゃんと決める必要さえないでしょうが、私たちが若い頃の恋愛は、待ち合わせの場所をちょっと間違えただけで相手に会えないなんてこともざらにありました。
そういう時代に恋愛をしてきたからなのか、『アナログ』のなかで一番好きなのは、二人が再会する場面より、悟がみゆきのことを喫茶店で待つシーンです。実際に会って話すより、「今日は彼女に会えるだろうか。会ったらどんな話をしようか」とひとりワクワクしている時間にこそ、恋愛の神髄があるような気がするのです。
師匠が描きたかったのも、そこなんじゃないかと思います。毒舌でありながら、非常に純粋でピュアな一面を持っていて、こと恋愛に関してはかけひきとは無縁な師匠が「恋愛で一番楽しいのは、知り合った瞬間」と言い切るのは、相手に謎が多いほど空想をかきたてられ、ますます深く知りたくなる、会いたいと思う気持ちが募るからでしょう。
東国原英夫
肩書きも知らず連絡先さえ交わさないまま逢瀬を重ねる悟とみゆきの関係は、まさに師匠が理想とする恋愛の形なのだろうと思います。
TVタックルの収録で2週間に1度の割合で師匠にお目にかかる機会があり、去年の夏頃から「いま、恋愛を書いてるんだよ」とこの小説の話を聞いていました。執筆している間は飲み会が少なくなるほど気合いが入っていて、発売日直前の収録には自ら何冊かお持ちになって出演者にプレゼントするほどだったので、私ももらえるかと思ったら「おまえは買って読めよ」と(笑)。もちろん発売すぐに買って読みました。
「アウトレイジ」のようなバイオレンス満載の映画を監督しながら、これだけピュアな純愛小説も同時に刊行されたことに「こういうことも出来るのか」と驚かされつつ、これぞかねてから師匠が提唱する「振り子理論」だと膝を打ちました。
師匠は絶対に映像化を意識してこの小説を書いているので、『アナログ』には悟やみゆきの外見や心象風景があまり語られていません。映像にしたとき陳腐に見えてしまわないように小説であまり書きすぎないようにしたのでしょう。
だからこそ、読みながら自分なりの「悟」や「みゆき」を思い切り妄想することができます。私がみゆき役に吉永小百合さん、少し前の石田ゆり子さんをキャスティングしたように、自分の理想の女性をあてはめて読むと、100倍楽しめますよ!