「性欲がなければ大統領になってた」元付き人が明かす、ビートたけしが小説を書いたワケ

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アナログ

『アナログ』

著者
ビート たけし [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103812227
発売日
2017/09/22
価格
1,320円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

男の子という美学 アル北郷

[レビュアー] アル北郷

ビートたけし
ビートたけし

「純愛ものやろうと思ってんだ」

 殿から初めて『アナログ』の構想を聞いたのは、実は「アウトレイジ」(2010年)の撮影に入る半年前のことでした。僕は22年前、たけしさんに弟子入りして付き人を7年間やらせていただいたのですが、当初は仕事がまったくなかったんです。そんな時に殿のご厚意で、「アキレスと亀」の脚本を手伝わせていただくことになりました。主な仕事は、殿が口頭で組み立てるプロットを、僕が文字に起こしてまとめるという作業。要は記録係ですね。それ以来、何か殿がアイディアを思いつくと連絡が来るようになったんです。

 あの日もテレビの収録後、夜中の1時半ごろ当時殿が住んでいた等々力ベースにお邪魔しました。そこでたけしさんが話し始めたのが、後に『アナログ』となる物語の原型でした。殿ってアイディアをいつも大学ノートに箇条書きにしてるんですよ。その時もノートを見ながら「喫茶店、男入ってくる」なんて具合にシーンが語られていったのを覚えています。セリフも全部1人でやるので、まるで落語を聞いているみたいでしたね。もとは映画の台本として考えてらしたのですが、結局半年後に「アウトレイジ」を撮ることになり、この“純愛もの”はしばらく眠ることになりました。

 それが1年半前、急に殿から「北郷悪いな、あのデータまだ持ってるか?」と電話がありました。そこからかなり加筆されたと聞いてはいましたが、本を読んで正直驚きましたね。元データとはまったくの別物で、とても描写豊かに、ディテイルも書き込まれていて。失礼ながらここまできちんと「小説」になっているとは思いませんでした。思い返せばこの1年半、飲み会の回数が減ったんですよ。かなり根を詰めて書かれたんじゃないかな。あれだけ忙しい中で、小説に出てくる建築関係のリサーチとか、電車の時刻表まで調べている様子を目撃したこともありました。

アル北郷
アル北郷

 今回“狂暴なまでにピュア”な純愛というテーマが話題ですが、僕はすごくたけしさんらしいなあと感じています。まず思い出したのが、殿が子ども時代に見たという、つながり乞食の話ですね。「Dolls」でも描かれてますが、ご本人がよくおっしゃる「究極の愛は究極の暴力」という言葉に通じるものを感じました。これまでの北野映画でもそうですが、基本的にたけしさんって男と女がたくさん喋る会話が嫌いですよね。要するにやりたいだけだろって。そういう偽善を笑いにするってことを、コントでもずっとやってきた人ですから。だから携帯やメールもない、最低限のコミュニケーションで男女を描いてみたかったのかなと思います。セックスが出てこないのも、より関係性をシンプルにしたら何が残るんだろうと思われたんじゃないかな。ご本人自身も4年くらい前から「そういうことに興味がなくなって、俺すごい楽しいんだ」っておっしゃってますよね。今までそこに当ててた時間を他のことに使えるからって。「初めからこうしていれば今ごろ大統領になってた」って言われた時は、みんなで「日本は大統領制じゃねーよ!」ってツッコミましたけど(笑)。

 たけしさんってよく「男の子」って言葉を使うんです。「男の子だから我慢できるだろ」とか「男の子だから四の五の言わない」とか。要するにそれが美学なんです。そういう意味で、強がって連絡先を聞かなかったり、最後まで相手を愛し抜こうとする主人公は、限りなくたけしさんに近い。男の子としての、たけしさんの美学がつまった小説なんだと思います。

Book Bang編集部
2017年11月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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