『ゲームの王国 上・下』 小川哲著

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ゲームの王国 上

『ゲームの王国 上』

著者
小川 哲 [著]
出版社
早川書房
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784152096791
発売日
2017/08/24
価格
1,944円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

ゲームの王国 下

『ゲームの王国 下』

著者
小川 哲 [著]
出版社
早川書房
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784152097019
発売日
2017/08/24
価格
1,944円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『ゲームの王国 上・下』 小川哲著

[レビュアー] 宮部みゆき(作家)

新星が描く苦難と未来

 少女の名はソリヤ。後にポル・ポトと呼ばれるカンボジア共産主義「組織(オンカー)」幹部の隠し子。養父母とプノンペンで貧しくも平和に暮らしていたが、まず養父が、ついで養母が共産主義者を弾圧する秘密警察に殺害され、ソリヤだけが彼女の出自の秘密を知るオンカーのスパイの手で命を助けられて孤児となる。

 少年の名はムイタック。農村ロベーブレソンの村長の息子。実はソックという名前なのだが、日に何度も「水浴び(ムイタック)」して家族を呆(あき)れさせ、それが通り名になるほどの強迫的清潔好きだ。ロベーブレソンでは温和な兄のティウンや、輪ゴムに神秘的な信仰心を抱く少年クワンや、土と会話できる「泥」など生き生きとユニークな人々と共に暮らしている。長閑(のどか)なロベーブレソンはオンカーとも秘密警察とも関わりがないように見えるが、ティウンとムイタックの叔父で元高校教師のフオンは、実はオンカーの構成員だ。そしてこのフオンを通して、私たち読者はムイタックが天賦の高い知性を持つ神童であることを知らされる。

 本書の上巻は、クメール・ルージュの「革命」と虐殺の時代を生き抜くソリヤとムイタックの苦難の道のりを描く。下巻では、数奇な運命に翻弄(ほんろう)されながらも「この国を救いたい」という強い意志を持って政治家になるソリヤと、脳波測定を用いた最先端のゲーム開発に邁進(まいしん)するムイタック教授が、立場は違えど同じものを求めて進み続けていることを描き出してゆく。二人が求めるものとは、世界というゲームを統(す)べる真に「正しい」ルールだ。誰もが普通に理解できて、人々の命と尊厳を守り得るルール。それが存在するところに真の王国もあると信じて。

 現代史の悲惨で過酷な事象を土台にしながらも、本書はきわめて上質なエンタテイメントであり、少年少女の成長小説だ。時々ユーモアさえ漂うのだから驚いてしまう。著者はただ者ではない。SF界からまた一つ超新星が現れた。

 ◇おがわ・さとし=1986年生まれ。東京大大学院に在籍中。2015年にハヤカワSFコンテストで大賞を受賞。

 早川書房 各1800円

読売新聞
2017年10月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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