『闘いを記憶する百姓たち』 八鍬友広著

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4
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闘いを記憶する百姓たち

『闘いを記憶する百姓たち』

著者
八鍬 友広 [著]
出版社
吉川弘文館
ジャンル
歴史・地理/歴史総記
ISBN
9784642058544
発売日
2017/09/15
価格
1,836円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『闘いを記憶する百姓たち』 八鍬友広著

[レビュアー] 清水克行(日本史学者・明治大教授)

 江戸時代の庶民の読み書き教材に「往来物(おうらいもの)」と呼ばれるジャンルがある。今でいう手紙の文例集のようなものだ。

 著者は旧家に残された古文書のなかから、実在の百姓一揆が幕府に提出した訴状や、村同士の山争いの訴状を手本にした「目安(めやす)往来物」と呼ばれる史料を見いだす。しかし、そこで採り上げられるのは、36人もの百姓が磔刑(たっけい)にされた凄惨(せいさん)な一揆と、千人以上の百姓が鉄砲140丁余りを持ち出して一触即発だったという山争いである。なぜに、そんな物騒な話が学習教材になって出回っていたのか?

 ヒントは、これらの教材がいずれも江戸前期に流通していた点にある。実力行使と報復が当たり前だった戦国時代から、訴訟と裁判の江戸時代へ。そうした歴史の大転換は、一朝一夕に実現したわけではなかった。時代の変化に対応すべく、百姓たちは過去を記憶し、そこから教訓を学びとろうとしていた。目安往来物は、そのための必須マニュアルだったのだ。

 目安往来物という特殊な史料を素材にして、最新の日本中世・近世史研究の到達点が平易に解説されている。(吉川弘文館、1700円)

読売新聞
2017年10月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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