『国宝の政治史』 家永真幸著

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国宝の政治史

『国宝の政治史』

著者
家永真幸 [著]
出版社
東京大学出版会
ISBN
9784130261562
発売日
2017/08/31
価格
5,832円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『国宝の政治史』 家永真幸著

[レビュアー] 出口治明(ライフネット生命保険会長)

 1972年、日中国交正常化に伴いパンダのランランとカンカンが来日して、空前のブームが巻き起こった。わが家も例外ではなく四川省のパンダの故郷を訪ねたほどだ。本書は、故宮文物とパンダという中国を代表する「国宝」を取り上げ、その政治利用の歴史を論じたものである。

 清朝皇室コレクションから始まった故宮文物は、溥儀の紫禁城退去に伴い、25年、中華民国によって故宮博物院に収蔵された。しかし、31年の柳条湖事件を機に「南遷」し、奥地に運ばれ、さらに国共内戦により約22%が台湾に運ばれた。49年、北京に共産党政権が成立し、どちらも一つの中国を標榜(ひょうぼう)したため、台湾に移された文物は、その移動が中国という国家の境界線を跨(また)いだか否かという政治問題を引き起こしたのである。

 一方、狩猟の対象だったパンダは、39年に禁猟となり国外持ち出しが不可能となった。41年、中国はアメリカにパンダ2頭を贈呈、これがパンダ外交の始まりとなった。

 故宮文物は分断国家問題の象徴となり、パンダは外交の道具となった。とてもユニークな研究だ。(東京大学出版会、5400円)

読売新聞
2017年10月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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