<東北の本棚>権力者の栄枯盛衰示す

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東北の名城を歩く 南東北編

『東北の名城を歩く 南東北編』

著者
飯村 均 [編集]/室野 秀文 [編集]
出版社
吉川弘文館
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784642083201
発売日
2017/08/21
価格
2,750円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<東北の本棚>権力者の栄枯盛衰示す

[レビュアー] 河北新報

 戦乱の舞台になった名城から、城主も不明、最近の発掘調査でようやく外郭が明らかになった支城まで、宮城、福島、山形県の城計66カ所を歩いた。城郭の変遷は、つわものどもの権謀術数、栄枯盛衰の歴史を体現しているようだ。
 宮城県は、例えば川崎町にある前川本城。山形自動車道の建設に伴う発掘調査で、城跡の北側に「城下集落」が発見され、城の役割が従来の想定より大きいことが分かった。主郭を囲んだ巨大な空堀。関ケ原合戦で伊達氏は最上氏と連合して会津の上杉氏と対決するが、「前川本城は、伊達氏が最上氏に援軍を送るための拠点として整備されたのではないか」と推定する。
 ほかに宮城県分では、震災復興調査で明らかになった新井田館(南三陸町)の発掘結果などが取り上げられている。
 福島県で興味深いのは阿津賀志山防塁(国見町)だ。奥州藤原氏と源頼朝軍の決戦場となった場所で、藤原氏は戦いに備えて阿津賀志山から阿武隈川まで3キロにわたって二重堀を構築した。幅24メートル、高さ4メートルの規模で、延べ40万人が動員されたと推定、東日本ではこれだけ長大な防塁を造った例はまれだ。「ここから先はわれらが領域」と、頼朝軍に権威を示しているよう。結果を見れば敗北だが、奥羽の命運をかけて、藤原氏は当初どんな戦略を立てようとしていたのかを知る上で、貴重な史跡だ。今後の研究が待たれる。
 山形県では、発掘調査、復元事業が進む山形城(山形市)の概況を報告。最上川舟運の拠点に造られた左沢楯山城(大江町)や日本海航路の拠点にある亀ケ崎城(酒田市)など交通の要衝にある城は、主がしばしば交代、攻防の歴史を語り継いでいる。
 編者の飯村均氏は福島県文化振興財団総務課長、室野秀文氏は盛岡市教委文化財副主幹。ほか各県の文化財担当者が執筆している。
 吉川弘文館03(3813)9151=2700円。

河北新報
2017年11月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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