戦前・中における軍事リテラシーを知るための新しい切り口

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飛行機の戦争 1914-1945 総力戦体制への道

『飛行機の戦争 1914-1945 総力戦体制への道』

著者
一ノ瀬 俊也 [著]
出版社
講談社
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784062884389
発売日
2017/07/19
価格
994円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

戦前・中における軍事リテラシーを知るための新しい切り口

[レビュアー] 板谷敏彦(作家)

 著者は軍事史関連の一般書を多数執筆している日本近現代史が専門の埼玉大学教授である。

 この本は歴代の戦闘機や爆撃機などを紹介する日本陸海軍の航空史ではない。第一次世界大戦以降の日本が総力戦を意識していく中で、軍による航空機の大衆啓蒙活動がいかになされて、国民のリテラシーがどう育まれていったのかを丹念な資料渉猟によって調べ上げたものである。

 テーマとして、現代では通説となっている日本海軍は「大艦巨砲主義」であったというのは本当かとの問いかけがなされ、そうではなく、軍制を担う軍も、軍事費を負担する国民の側も充分に航空機は重要な兵器だとの認識を持っていたのだという反論が各種資料を通じてなされていく。

 初期の航空兵は死亡率が極めて高かったが、社会的地位と待遇が良いために、国民貧困層の立身出世(大逆転)の手段としてのあこがれの存在であった。また軍が協力する博覧会や、国民一人一人がお金を出し合う軍用機献納運動などが盛んであったことなど、軍の熱心な啓蒙によって、国民は飛行機に関するリテラシーを持っていた。

 こうして著者は、日本海軍の大艦巨砲主義説は海軍善玉論と並んで、戦後に海軍関係者によって築かれた「山本五十六」などを美化し英雄化して組織の責任を回避するための虚構ではないかとしている。

 評者はこの本から、現代の古い体質の官庁や大企業にありがちな、わかっていながら改革できない面との類似性を感じた。航空戦力の重要性は知識として充分認識されていたが、硬直化した軍官僚組織の中で、従来のエリートコースである歩兵師団長や戦艦艦長経験者の発言力は強く、建前として航空戦力増強を唱えながらも現実には古い体質が抵抗勢力となったのではないだろうか。これはアメリカ軍も同じことだ。本書は戦前戦中の国民の軍事リテラシーに関する新しい切り口の貴重な一冊である。

新潮社 週刊新潮
2017年11月9日神帰月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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