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SNS依存の人びとのグロテスクな行く末
[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)
承認欲求。今やすっかり社会に浸透している概念だが、10年ほど前までは日常的に用いられるような言葉ではなかったはずだ。その急速な変化の背景に、ソーシャルメディアの存在があるのはいうまでもない。
すでに映画化されている(日本では11/10公開)デイヴ・エガーズの『ザ・サークル』上下巻(吉田恭子訳)は、SNSに依存する人びとの行き着く先をグロテスクな形で示した問題作だ。舞台は世界最大のインターネット企業。中途採用組で努力家のメイは、持ち前のひたむきさを高く評価され、新サービスの広告塔に抜擢される。その内容とは、自分の行動を24時間ネット上で公開し続ける(!)というもの。要するに、個々人の生活がいつでも・どこでも・誰にでもシェアされる状態の実現というわけだ。
まさにインスタグラムの「ストーリー」機能を拡張したようなサービスの現実味もさることながら、キラキラした職場で承認合戦を繰り広げるうちに、普通の感覚を持ち合わせていたはずのメイが全体主義的な思考に飲み込まれていく過程がとにかくしつこくて生々しい。原著の刊行は2013年だが、たった4年のあいだに現実のありようが作中世界へどんどん近づいている点に戦慄を覚える。
SNSが可視化させてしまったもの。そこには人びとの「自意識」も含まれるだろう。直木賞を受賞した朝井リョウの『何者』(新潮文庫)は、ぱんぱんに膨らんだ自意識の中で当たり前のように呼吸することを求められる就活生たちの姿を鮮明に写し取った、金字塔的な作品だ。この小説の登場以降、SNSは現代の息苦しさを象徴する装置としてフィクション世界に登場することが多くなった。
ではソーシャルメディアの向かう先は、もはやディストピアしかありえないのか?――思い起こすのは、ネットの掲示板の住人たちが、恋愛経験ゼロのオタク青年を実際に励まし続けた記録をまとめた『電車男』(新潮文庫)。そこにあった熱狂は、ネットワークがもたらすポジティブな可能性を体現していたのだろう。