『AMETORA(アメトラ) 日本がアメリカンスタイルを救った物語』
- 著者
- デーヴィッド・マークス [著]/奥田祐士 [訳]
- 出版社
- DU BOOKS
- ジャンル
- 社会科学/社会
- ISBN
- 9784866470054
- 発売日
- 2017/08/18
- 価格
- 2,420円(税込)
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米国研究者によるニッチな日本文化の考察
[レビュアー] 佐久間文子(文芸ジャーナリスト)
日本のロック、ジャズ喫茶など、ニッチな日本文化についてのアメリカの研究者による研究が近年、発表されている。本書で取り上げられているのは男性ファッションで、アメリカの伝統的なファッションがどのように日本に採り入れられ、オリジナルとは別なかたちに作り上げられ保存されていったか、その後、アメリカだけでなく世界にどんな影響を与えたかを丹念に辿っていく。
本書を読んで初めて知ったが、日本で一九六五年に出た『TAKE IVY』という写真集が、二〇一〇年にアメリカで再刊され、五万部を超える売り上げを記録したという。驚くべき数字だが、その時期のアメリカの若者がアイビー・スタイルに関心を寄せたとき、真っ先にお手本にしたのは日本だったそうで、「1960年代のアメリカに、大学生の写真を撮っておこうと考える人間はほとんどいなかった」と著者は書いている。
考えてみれば、生活史や文化的背景を大胆に無視して、カタログ的な雑誌によってファッションを学ぶ、という日本の若者のスタイルは独特であり、そうしたスタイルは、街頭スナップを載せる「サルトリアリスト」などのファッションブログや、インスタグラムなどにも影響を与えているようだ。
本書は一九六四年、東京オリンピック前夜の「みゆき族」の一斉検挙から始まっている。「みゆき族」とその逮捕劇についても、石津謙介の「VAN」の成功と挫折や、原宿の「ピンクドラゴン」、雑誌「ポパイ」の創刊が若者へ与えた影響などについても、それなりに知っているつもりでいた。
けれども、こうやって、「アメトラ」の受容と変容という視点でさまざまな活字資料や証言とともに集められ、並べられて読み直すと、それぞれの物語のあいだのつながりや影響関係がはっきりと見える。すると、中に埋め込まれていたそれぞれのピースも俄然、光り出すのだ。国産ジーンズの歴史やユニクロの成功なども、本書の文脈に置かれると、それまでとは違った見え方をする。
ほとんど情報のないアメリカの服を、いかにそっくりに作って消費者に広めるか。そのうえで、オリジナルを超える魅力を生み出すか。他のジャンルでも見られる飽くなき努力によって、日本は「世界一ファッションにこだわる国」と見られるようになった。
それにしても、占領国のファッションが、なぜこれほど戦後の若者の心をとらえたのだろう。著者が冗談半分に書く「全国スケールのストックホルム症候群」でないのは明らかだが、音楽や映画も含めたアメリカの文化的占領政策には、まだ明らかになっていない巧妙なしかけがあったのでは、という気がしてくる。