国粋的イデオロギーと親鸞の結びつき

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3
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親鸞と日本主義

『親鸞と日本主義』

著者
中島 岳志 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784106038143
発売日
2017/08/25
価格
1,512円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

国粋的イデオロギーと親鸞の結びつき

[レビュアー] 稲垣真澄(評論家)

 日本主義とは「天皇を中心とした国体を信奉する国粋的イデオロギー」のこと。テロリズムや超国家主義の母胎ともなり、戦前の日本を厚く覆った。しかしその意味でなら、親鸞よりも日蓮思想とのかかわりが指摘されるのがふつうで、親鸞との結びつきには、むしろ「?」を覚える向きも少なくなかろう。

 田中智学、北一輝、石原莞爾、井上日召らの法華経信仰、日蓮への傾倒は有名だ。日蓮自身、社会への関心が強い。自らの正しい信仰と行動とで悪世を正すという強い意志は、日本主義者の理想主義ともストレートに結びつく。その点、悪世よりも悪なる自己を見つめる親鸞思想では、社会は後景に退き、日本主義とは隔たりがあるやに受け取られがちだ。

 しかるに本書が紹介する諸例は、親鸞思想と日本主義との結びつきが、かなり深く、構造的であることを示している。最初に挙げるのは三井甲之という歌人。靖国神社・遊就館にその歌が掲げられているそうだが、現在ほぼ完璧に忘れ去られた人物だ。ただ、戦前の思想界に猛威をふるい、蛇蝎のごとくに嫌われた『原理日本』の理論的指導者で、あの蓑田胸喜にも影響を与えた人物と聞けば、かなり純度の高い日本主義者だと知れる。その彼は一高時代、真宗僧・近角常観の導きで親鸞に接し、以来、親鸞思想が生涯を通じての通奏音となっている。違うのは、「阿弥陀仏」が「祖国日本」に置き換わった点だけ。

 ほかに『出家とその弟子』でベストセラー作家になった倉田百三。『親鸞』や『宮本武蔵』で知られる国民作家・吉川英治。獄中、教誨師の影響で親鸞の教えに近づく多くの転向マルクシストたち……。実際、親鸞と格闘した作家や思想家には、日本主義に傾く人が少なくないのだ。倉田や吉川らは実践運動にまでかかわっている。さらには、大陸で信者らの戦死が出始めるに及んで、彼らに戦死の大義を用意すべく、「戦時教学」という名の、多分に日本主義的な親鸞理解を推し進めた真宗の指導的学僧たち。

 ここで大急ぎで冒頭の「?」に戻る。二つの回答があるように見える。一つは、どんなに自己と世界を否定する宗教でも、宗教である限り最終的には物事を絶対肯定する面があるわけで(親鸞の場合、自然法爾(じねんほうに)という)、その点で日本主義をも受け入れてしまったというのだ。

 もう一つの説明にはウナってしまう。著者は先行研究を参照しつつ語る。国体論の起源は水戸学と宣長の国学の二つだが、国学の骨子は周知のように漢意(からごころ)の排除である。漢意とは「さかしら」「はからい」で、仏教的にいえば自力。浄土宗の篤信者だった宣長は漢意の排除を、法然の他力思想から得ていた可能性が高い。すなわち日本主義こそ法然や親鸞思想から生まれ出たというのだ。ウーム。

新潮社 新潮45
2017年11月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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