『子どもを叱り続ける人が知らない「5つの原則」』
- 著者
- 石田, 勝紀
- 出版社
- ディスカヴァー・トゥエンティワン
- ISBN
- 9784799321683
- 価格
- 1,650円(税込)
書籍情報:openBD
怒っていいのは非常時のみ。子育てでは「諭す」「叱る」「怒る」を使い分けよう
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『子どもを叱り続ける人が知らない「5つの原則」』(石田勝紀著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者は、20歳で起業して以来、30年間近く教育に携わってきたという人物。これまで直接指導してきた生徒は3500人以上。さらには講演会、セミナーなどを含め、5万人以上の子どもたちと親御さんに関わってきたのだそうです。
そんななかで気づかされるのは、「子どもを叱り続ける」状態にある家庭がとても多いことなのだとか。とはいえ親も人間ですし、感情だってあるもの。そうそう立派な対応がとれるわけでもなく、それは当然のことだと認めてもいます。
考えてみるべきは、「なぜ叱るのか?」「叱った結果、どういう状態になることを期待しているのか?」ということ。期待どおりの結果になれば、その「叱る」は効果的だったことになります。ところが叱り続けていても変化がなく、むしろ悪化しているのだとしたら、それは「叱る」というアプローチが違っている可能性があるということです。
そこで、いったん日々の喧騒から離れ、「叱る」ことを“他人ごと”にしてみて考えようという意図で書かれたのが本書。そんな観点に立てば冷静な見方ができるようになり、さまざまなことがわかってくるというわけです。そして、その後それらを「自分ごと」として考え、具体的にどうすべきかの糸口を探ろうということ。
なお著者によれば、タイトルにもなっている「子どもを叱り続ける人が知らない『5つの原則』とは次の5つ。
【第1原則】
自分とまったく同じ価値観の人はいない
【第2原則】
強制されたことはやらない。
やったとしても、形だけになる
【第3原則】
人間には、最低3つの長所がある
【第4原則】
親は成長が止まっているが、子どもは成長している
【第5原則】
まず、「諭す」。「叱る」「怒る」は非常時のみ。
(「はじめに いけないことだとわかっていても、なぜ叱りつけてしまうのか?」より)
そんな本書のなかから、きょうは第5原則 まず、「諭す」。「叱る」「怒る」は非常時のみに注目してみましょう。
叱り続けることで、その効果は半減する
「叱る」に関連する言葉に「怒る」、あるいは「諭す」がありますが、これらの使い分けを、著者は次のようにまとめています。
・ 通常モード → 「諭す」
・ 非常モード → 「叱る」(人の道に反したとき)
「怒る」(今この瞬間に檄を飛ばさないと、一生後悔させることになると思ったとき=緊急非常事態時)
(172ページより)
通常であれば、最初にするのは「説諭」、つまり「教え諭す」こと。たいていの場合、子どもは悪さをしたときには自分が悪いと認識しているものなので、説諭を行なっていくわけです。ちなみに説諭とは、真剣なモードで感情的にならずに問題点を指摘すること。いわば「言って聞かせる」イメージです。
これに対して、緊急モードで使うのが「叱る」と「怒る」。ご存知のとおり、一般的に「怒る」は感情的、「叱る」は教育的だと思われています。感情的になるのはあまりよいことではなく、教育的なことはよいと思われる背景があるため、「怒るのはダメ」「叱るのはよい」と考えている人も少なくないということです。
そのことを踏まえたうえで、著者は「怒る」と「叱る」の違いについての考え方を記しています。
私は、「叱る」という行為は、人の道に反したときに使うものであり、「怒る」は「雷を落とす」と表現されるように、一撃で相手を修正させなくてはならない緊急事態のときに使うものだと考えています。
特に「怒る」は、使い方を間違えると、のちのち大変なことになるため、それなりの覚悟は必要です。
怒る場合も「行為」に対して怒るのであって、「人格」を否定してはならないことは言うまでもありません。
また、「怒る」は伝家の宝刀のようなもので、やたらめったら使うものではありません。
常時使っていると、やがて効き目がなくなっていきますし、ひどい場合は恨みを残してしまうことすらあるのです。(173ページより)
つまり、このように「怒る」「叱る」「諭す」の3つを、緊急度に応じて使い分ける必要があるということです。(170ページより)
感情をコントロールするよりも簡単な方法
記憶に留めておかなければならないのは、「ただ叱り続けても、なんの効果もない」ということだそう。また、「叱る」と言う非常モードをいつも使うのではなく、「諭す」がファーストステップとしては有効だともいいます。
ただ、理屈のうえでは「叱る前に説諭をしてください」ということになるものの、「それができれば苦労しない」という反論もあることでしょう。そこで著者は、次のような方法を試してみてはどうかと提案しています。
感情をコントロールしようと考えるのではなく、日々使う言葉を変える
(195ページより)
言葉には力があり、エネルギーがあります。人を励まして元気にすることもできれば、自信を喪失させることもできます。特に、マイナスの言葉は非常に強烈なパワーを持っているものなので注意が必要。そこで、きょうからマイナス言葉は発さず、ポジティブな気持ちになる言葉を使うように行動を変えていこうと著者は提案しているのです。
マイナス言葉とは、「愚痴、不平・不満、嫉妬」など、人が聞いて心地よくないと感じる言葉や、気持ちを減退させる言葉のこと。こうした言葉ばかり使っていると、ますますネガティブ思考に陥ってしまうわけです。
「きょうから言葉を変えてみよう」と思っても、慣れないうちは、いつの間にかマイナス言葉ばかりを使っていた、などということもあるでしょう。でも、そんなときは意識して切り替えればいいだけのこと。「やっぱり自分はダメだ…」と思う必要はまったくないわけです。
× イライラがたまっている状態
・ 子どものよくない点ばかり目につく
・ 怒る、叱る
○ 言葉の種類を変える(ポジティブな言葉に)
・ 子どもの長所・よくできた点を探すようになる
・ だんだんと、「叱り続ける」状態がなくなってくる
(196ページより)
日ごろ使う言葉が変わってくると、意識が向かう対象が変わってくるもの。すると、自然と子どものよい点を見つけられるようになるというわけです。その結果、子どもは自信を持ち、親に認められたことで、「もっと認められたい」という気持ちになれるということ。
ここで参考までに、著者による「子どもの自己肯定感を上げる10のマジックワード」と、「子どもの自己肯定感を下げる3の呪いワード」をご紹介しておきましょう。
○ 子どもの自己肯定感を上げる10のマジックワード
こちらを口癖にしましょう!
□ なるほど!
□ すごいね!
□ だいじょうぶ!
□ さすがだね!
□ 知らなかった!
□ いいね!
□ 助かった!
□ ありがとう!
□ (私は)うれしい!
□ ○○(子どもの名前)らしくないね〜
× 子どもの自己肯定感を下げる3の呪いワード
■ きちんとしなさい!
■ 早くしなさい!
■ 勉強しなさい!
(197ページより)
親というのは大変な仕事ですし、「これが誰にでも通じる正しい子育て・教育方法だ」といえるものがあるわけでもありません。Aさんには効果的でも、Bさんには効果がないということもあり得るということ。しかし、ちょっとくらい間違ってもいいのだと著者は主張します。
もし間違ったとしたら、そのときに修正すればいいだけのこと。右に行って間違ったら、左に行けばいいし、それも違っていたら、まっすぐ行けばいい。ときには、止まることや後退することがあってもいいという考え方です。(194ページより)
いうまでもなく本書は「子どもの叱り方」について書かれたものなので、子どもを持つ親にとっては有効なメソッドとなるでしょう。しかしその一方でもうひとつ注目すべきは、帯にも書かれている「会社の部下・後輩にも使えるヒントが満載」という部分。
つまり子育てだけに限らず、人を育てる立場にいるビジネスパーソンにとっても有効なアイデアや考え方が豊富に盛り込まれているのです。そういう意味で、多くの人の役に立ちそうな1冊です。
Photo: 印南敦史