陶芸への道 近藤精宏 著  

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陶芸への道―そして瑞浪芸術館へ

『陶芸への道―そして瑞浪芸術館へ』

著者
近藤精宏 [著]
出版社
里文出版
ISBN
9784898064573
発売日
2017/09/08
価格
1,980円(税込)

陶芸への道 近藤精宏 著  

[レビュアー] 高橋綾子(美術評論家)

◆「素にして高雅」 理想追う

 一九四五年生まれの陶芸家による自分史には、戦後史と交差する精神の彷徨(ほうこう)、成長と成熟の軌跡が見てとれる。そこは、人生の“窓”となるような師に出会えたことの奇跡と、一筋の道を真摯(しんし)に生きる尊さに満ちている。

 生後間もなく相次いで両親を亡くした著者は、新潟県柏崎の地で祖父母の愛情に包まれて成長、しかし豊かな自然の中で友と戯れる屈託のない日々も長くは続かなかった。祖父母が亡くなるとまた孤児となり、隣町の親戚に引き取られた。第一章「陶芸への道」では、不遇の生い立ちから、上京後の逞(たくま)しく労働に明け暮れる日々と陶芸を志すまでの苦闘、そして永遠の師となる小山冨士夫に出会ってからの人生の光明が綴(つづ)られる。少年たちが野山や川で遊ぶ描写は生き生きと具体的で、心が躍る。一転、高校を卒業して上京するまでの六年間の苦悶(くもん)は、言葉は少ないが、重苦しい切なさが伝わる。著者は湧き上がる感情に素直に対応しながら、記憶を紡いで筆を進めている。

 第二章「忘れ得ぬ人とことども」では、焼きものを通じた交遊録が披露されている。修業と独立、さらにNPO法人「瑞浪(みずなみ)芸術館」の設立と運営をめぐるさまざまな交流。師を通じて知己を得た高名な芸術家から、身近な人々との出来事までが、多くの固有名詞とともに紹介されている。

 本書に通底する美意識や創作への敬意は、やはり世界的な東洋陶磁研究者で陶芸家でもあった小山冨士夫の晩年の様子と素顔の記述に集約される。小山が岐阜県土岐市に構えた自邸と花の木窯が造られる過程や、画家サム・フランシスの来訪と絵付けの様子などは今や貴重な歴史の証言でもあろう。

 「大らかにして奔放、豪胆で桃山を越え、さながら万葉人のような素にして、自由で高雅な作品である」。師が辿(たど)り着いた境地は、ひいては著者自身の理想ではないか。作陶に没頭した師を、内弟子として支え、学んだ若き日の著者。万感の想(おも)いが響く一文だ。

(里文出版 ・ 1944円)

<こんどう・せいこう> 1945年生まれ。陶芸家。2000年から瑞浪芸術館理事長。

◆もう1冊 

 オーレ・トシュテンセン著『あるノルウェーの大工の日記』(牧尾晴喜監訳・エクスナレッジ)。手仕事に生きる誠実な男のエッセー。

中日新聞 東京新聞
2017年11月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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