『お父さん、だいじょうぶ?日記』
書籍情報:openBD
【聞きたい。】加瀬健太郎さん『お父さん、だいじょうぶ?日記』 日々のしょうもないことから
[文] 加瀬健太郎(写真家)
プロのカメラマンである著者が、幼稚園に通う息子たちを撮ったスナップ写真と、家族のことを書いた文章を編んでいる。両方ともいちいち面白い。たとえば冒頭。戸外で摘んだらしい小さな花束を手にした幼い兄弟の写真に添えられているのはこんな文章だ。
〈家にきれいな花が飾ってあった。「なんぼしたん?」と嫁さんに聞いたら、2500円だった。「高いわ、俺そんな稼ぎないで」と言ってケンカになった。男があまりにセコいとケンカになるので気をつけたい〉
という調子で、ページを繰るのが楽しい。子供の言い間違いを〈訂正するのももったいないから、そのままにしておく〉という父、ツッコミ上手の母、そして天然ボケを次々に繰り出す子供たち。つい頬が緩み、ププッと吹き出し…人前で読まないほうがいいかも。
もともとはブログで連載していた。「子育てとは…とか、夫婦とは…とか、そういうのは恥ずかしくて書けないけど、出来事だったら書ける。日々のしょうもないことから、かたちにできそうなものが見つかると、うれしかったですね」
自宅の壁にはフィルムカメラが何台もつり下げられている。撮りたいと思ったとき、その瞬間を逃さないためだ。「写真って、カメラを持ってないときに限って、いいのが来たりするので(笑)」。この日記では写真を撮ってそれについて書くよりは、言葉が先に浮かんできて、撮りためた写真からそれに合うものを選ぶことが多かったという。
〈下の子に、「ママって呼んでるけど、ママの本当の名前知ってるか?」と聞いたら、「奥さん」って答えた〉。写真は、ママの太ももにガシッとはさまれて歯磨きされてるところ。
長男が小学生になり、三男誕生で家族が増えたところで約1年半の日記は終わるが、加瀬家の何げない日々は、うらやましいぐらい楽しそうだ。
「いまでも書いているときの状態に戻りたいぐらい、僕も楽しんで作ってました」(リトルモア・1600円+税)
篠原知存
◇
【プロフィル】加瀬健太郎
かせ・けんたろう 写真家。昭和49年、大阪府生まれ。著書に『スンギ少年のダイエット日記』など。