奇想天外 復刻版 アンソロジー

『奇想天外 復刻版 アンソロジー』

著者
山口雅也 [著]
出版社
南雲堂
ISBN
9784523265634
発売日
2017/10/27
価格
1,980円(税込)

往年の読者も感涙の一冊 かくも素敵な雑誌があった

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 まさか2017年に、あの「奇想天外」が復活しようとは。しかも表紙は、第2期創刊当初の懐しいデザインそのままに、楢喜八の描き下ろし(絵の中には宣伝用QRコード入りスマホ)。50代以上のSF読者には、書店で見かけて思わず目をこすった人も多いんじゃないですか。

 一応説明しておくと、最初の「奇想天外」は、ワセダミステリクラブOBの曽根忠穂編集長が、福島正実と小鷹信光を顧問に迎えて創刊したすばる書房盛光社の翻訳小説誌。SFとミステリの二本柱にファンタジーとホラーを加え、《異色作家短篇集》系の作家(フィニイ、ブラッドベリ、カーシュ、マシスン、コリア……)中心の布陣を組む一方、種村季弘、野田昌宏、石上三登志、団精二(荒俣宏)、小野耕世、岡田英明(鏡明)、LEO(黒丸尚)らがコラムを連載。付録に挟み込みの巨大パズルがついたり、青木雨彦によるロングインタビュー(赤塚不二夫、小泉喜美子、星新一……)があったりと、ごった煮の面白さがウリだった。

 この第1期(74年1月号~10月号)のあと、版元を奇想天外社に移し、SF専門誌として再出発したのが第2期。76年4月号から81年10月号まで67冊(+別冊15冊・増刊1冊)を出し、新井素子や山本弘、谷甲州、牧野修を輩出、SFマガジンの対抗勢力として気を吐いた。また、別冊から派生した「マンガ奇想天外」はニューウェーヴ漫画ブームの一翼を担い、吾妻ひでお、大友克洋、さべあのま、高野文子らが活躍した。

 誌名を「小説奇想天外」と改めた第3期は、新井素子や竹本健治の長編を掲載し、大陸書房から12冊を刊行(87年11月号~90年春号)。

 私事ながら、筆者は第2期最後の別冊で翻訳者デビューし、第3期で初の連載を持ったので、個人的にもたいへん愛着が深い雑誌ですが、本書はその「奇想天外」(1期+2期)の傑作選。山口雅也編ということで1期中心(ミステリ寄り)かと思いきや、大半が2期からの再録。ファーマーのホームズものの中編を軸に翻訳6編、鈴木いづみ「わすれない」、第1回奇想天外新人賞佳作の大和眞也「カッチン」(+星・小松・筒井の選考座談会)、高信太郎や高野文子の漫画、都筑道夫×石上三登志、鏡明×瀬戸川猛資の対談など多彩なチョイスに加え、巻頭には曽根編集長の回顧インタビューもつき、ファン感涙の構成。なお、新本格系の作家が大集合する新作集『奇想天外[21世紀版]アンソロジー』も同じ山口雅也編著で同時刊行されている。

新潮社 週刊新潮
2017年11月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク