“騙された”の楽しみを ジェフリー・ディーヴァー新作

レビュー

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スティール・キス

『スティール・キス』

著者
ジェフリー・ディーヴァー [著]/池田 真紀子 [訳]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784163907444
発売日
2017/10/30
価格
2,700円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

謎解きの爽快感に加えて虚を衝く企みがもう一つ

[レビュアー] 杉江松恋(書評家)

 ミステリーを読むときには、謎解きの爽快感だけではなく、うまく騙された、という悔しさ半分の驚きも欲しいのである。その楽しみを十分に味わわせてくれるのがアメリカの作家、ジェフリー・ディーヴァーだ。

 アメリア・サックス刑事が殺人事件の容疑者、〈未詳40号〉の身柄を確保するためにショッピングセンターへ踏み込んだとき、思わぬ事態が起きた。エスカレーターの乗降板が外れ、人間を飲み込んだのだ。モーターに切り刻まれていく犠牲者を救うため、彼女は追跡を中断する。偶然に起きた、哀しむべき事故。しかしそれは、壮大な犯罪計画の序幕にすぎなかったのである。

『スティール・キス』は四肢麻痺の科学捜査官リンカーン・ライムと腕利きの刑事アメリアが活躍するシリーズの最新作である。だが今回は、二人が同盟を解消した状態から物語が始まる。あることがきっかけでリンカーンが引退を宣言したからだ。彼抜きで事件は解決できるのか、と不安になる読者も多いはずだが、それ以外にも、チームの一員が不穏な動きをしていたり、アメリアの元恋人が戻ってきたりと、彼女の周辺は慌ただしい。それら脇筋の話を本筋に組み込んでいく手際が見事で、後半は物語の幹が一気に太くなる。このサブプロットの使い方が見事なのだ。

 最近のこのシリーズでは、文明社会のインフラを狙う犯罪が頻繁に登場してくる。今回の〈未詳40号〉もそれで、彼は人間の身近な機械が情報化されていることを悪用して攻めてくるのである。しかし、そうした犯罪の外構(がいこう)だけにとらわれていると足をすくわれることになるだろう。作者は読者の虚を衝くような企みをもう一つ仕掛けているからだ。喩えるならば、はずみで押したボタンが実は巨大ロボットの起動装置だった、みたいな驚きが後半で待っている。機械が動くのは知っていたけどそれがスイッチかよ、と読者に呟(つぶや)かせる。それがディーヴァーなのだ。

新潮社 週刊新潮
2017年11月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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