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  • 奇奇奇譚編集部 ホラー作家はおばけが怖い

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「翻案」テーマに謎解き17年ぶりの〈円紫さん〉

[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)

 大学生だった《私》が噺家の円紫師匠と出会い、日常の謎を解いていく北村薫の人気シリーズ〈円紫さんと私〉。十七年ぶりの新作『太宰治の辞書』が、短篇一本とエッセイ二本を加えて文庫化された。

 本作では登場人物も年月を重ねている。《私》は編集の仕事を続けており、今は連れ合いがいる。大真打ちとなった円紫さんや学生時代の友人、正ちゃんとの交流が続いているのが嬉しい。ある時《私》は新潮社で、百年前の新潮文庫の復刻本にピエール・ロチの『日本印象記』の名を見つけ、芥川龍之介がこれを翻案した短篇「舞踏会」や、三島由紀夫のロチへの言及を思い出す。その後も、太宰治の「女生徒」の不自然な描写や「生れてすみません」という有名な言葉の裏側、彼が使っていた辞書の謎へと思いを広げていく。通底するテーマは「翻案」で、作家の創作力、フィクションの力を浮かび上がらせる。

 同じく本にまつわる本だが全く趣きの違う二冊を。かつて『ミステリ原稿』というタイトルで出ていたオースティン・ライトの作品が、トム・フォードによる映画作品公開に合わせ、『ノクターナル・アニマルズ』(吉野美恵子訳 ハヤカワ・ミステリ文庫)と改題して刊行された。

 主婦のスーザンのもとに元夫が書いた小説の原稿が届く。それは妻子を連れ去られ惨殺された男が犯人を捜すという内容。作中作の主人公の葛藤、それを読むスーザンの心情の変化、そして元夫がなぜこれを送ってきたのかという謎が絡み合う。映画ではスーザンがアートギャラリーのオーナーになっているなど、微妙に設定が異なっているので、比べてみるのもよし。

 第二十四回日本ホラー小説大賞優秀賞を受賞したのは木犀あこの『奇奇奇譚編集部 ホラー作家はおばけが怖い』(角川ホラー文庫)。臆病なのに幽霊が見えてしまうホラー作家と、霊感のない担当編集者が心霊スポットを取材。不気味な音を立てる幽霊の正体に「!」(ネタバレになるので何も書けません)。コンビものとしても楽しく、シリーズ化を期待。

新潮社 週刊新潮
2017年11月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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