【対談】ずっと新しいワクワクのほうが楽しい ラッキィ池田×ヒャダイン

対談・鼎談

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【ラッキィ池田『「思わず見ちゃう」のつくりかた―心をつかむ17の「子ども力」―』刊行記念対談】ラッキィ池田×ヒャダイン/ずっと新しいワクワクのほうが楽しい

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ラッキィ池田さんとヒャダインさん

テレビや音楽の世界で出会ったヒットメーカーたちの発想の秘訣を著書に綴ったラッキィ池田さんが、「今、もっとも刺激を受けている人」であるヒャダインさんと「ヒットの発想」をテーマにラカグで対談しました。

 * * *

ラッキィ NHK仙台のキャラクター、やっぺぇのテーマソング『やっぺぇ!がんばっぺぇ!』の撮影でご一緒して以来ですね。曲をヒャダインさんが作って、僕が振り付けをして、一緒に踊ってね。お会いするのは仙台が初めてでしたが、これまでもいろんな作品でご一緒していたんですよね。

ヒャダイン エビ中(私立恵比寿中学)だけでも『金八DANCE MUSIC』をはじめ、2、3曲ありますよね。

ラッキィ 作曲活動がすごいよね! 有名なのはももいろクローバーZだけど、他にもAKBやって、でんぱ組.incもやって、エビ中も、ジャニーズも、超特急も、ボイメン(BOYS AND MEN)もやって。

ヒャダイン ボイメンは、最近ラッキィさんと一緒に新曲『帆を上げろ!』を担当させていただきましたよね。

ラッキィ 男女関係で例えると、不倫どころじゃないね! 僕もひどいけどね。広島カープの応援ダンスを作ってるけど、横浜DeNAのダンスもやってるから。

ヒャダイン 節操ないですね~(笑)。

ラッキィ それだけいろいろやっていると、ももクロはももクロらしくとか、グループごとに変えなきゃいけないというプレッシャーはあるでしょう?

ヒャダイン そのグループのメンバーの顔とか、テーマカラーを思い描きながらやると、けっこう大丈夫です。でも、この間作った作品をマネージャーに提出したら「4年前のエビ中の曲とまったくおんなじです」って言われて(笑)。

ラッキィ それ、あるよね!

ヒャダイン 一言一句、歌詞が一緒だったんです。

ラッキィ これは永六輔さんから聞いた話なんですが、岡本太郎さんを昔見かけて挨拶したら「フン」ってされて、無視されたらしいんです。こないだ仕事であんなに親しげに話したのに……と思って、今度は詳しく「どこどこでご一緒した」と話しかけると、岡本さんは「オレには過去はない!」と言い放ったそうです。

ヒャダイン あら~、難しいひと。

ラッキィ オレには過去はないって、すごくないですか?

ヒャダイン そうですね、いつも今と未来を生きているんだと。僕がまったく同じ歌詞を提出しちゃったのは、過去ありありですね(笑)。いや、自分としては過去がないので、同じ曲を出しても違う曲だと言い張るのかもしれません。

ラッキィ 岡本太郎さんは著書に「なぞるくらいなら死んじまえ」とか書いてるのに、作品を見ると全部同じですしね。

ヒャダイン それは言わない約束じゃないですか(笑)。

ラッキィ きっと、なぞってはいないんですよね。同じような作品でも、毎回新しい気持ちで作っているのかもしれません。まあでも、ヒャダインさんは変わったタイプの音楽家ですよね。つんく♂さんや小室哲哉さんなど、いろんな方に影響を受けたと話しているけど、出てくる音楽が全然違っているんです。僕が思うに、キダ・タローさんとかに近い。

ヒャダイン おお、浪花のモーツァルト! 「とれとれぴちぴちカニ料理」。

ラッキィ よく番組のジングルとか、CMも作っていますよね。

ヒャダイン ラッキィさん振り付けの「スカッとじゃんけん」とかね。

ラッキィ 振り付けすると分かるんですが、ヒャダインさんの曲って余計なパートが一切ないんです。無駄な間奏とか、無駄なイントロとかがない。それがすごいと思って。

ヒャダイン たしかに。けっこうごちゃごちゃしていると言われがちなんですけど、構成に無駄があるとノイズに聞こえちゃうので、切ってますね。

ラッキィ 音楽家でありながら、考え方が音楽寄りじゃないんですよ。こういう人って珍しい。遊びの感覚で作っているような。ところで、今日は朝から、ウナギトラベルというぬいぐるみ専門の旅行会社が主催している神楽坂旅行をお手伝いしてきたんですけど。

ヒャダイン お客さんからぬいぐるみを預かって旅行するってことですか?

ラッキィ そう。ここの社長さんと初めて会ったのは、ラジオの中継で日本科学未来館を取材した時、外の公園でぬいぐるみをたくさん抱えて写真を撮っている人がいたんですよ。「話しかけていい人なのかな?」と思ったんですが(笑)、声をかけたら、もとは外資系の金融にお勤めで、退社して起業されたベンチャーと聞いて。明るい発想で、素敵ですよね。

ヒャダイン ハッピーですね。

ラッキィ そういうことをしながら、楽しく生きていこうじゃないかと。

ヒャダイン 今日のテーマですね。

ラッキィ ただ、やっぱり現状を打ち崩すって難しいですよね。10年くらい前、ワニの養殖を始めた老夫婦を取材したことがあって、ワニって養殖が楽で、ほほ肉が美味しいらしい。それ以来、流行るかなと思ってお肉屋さんへ行くと見るんですが、一切ないですね!(笑)

ヒャダイン 出回ってないですね。鶏肉みたいでおいしいって聞きますけど。

ラッキィ 何かのきっかけでヒットすればいいんですが……。

ヒャダイン スタンダードになるのはめちゃめちゃ難しいです。

ラッキィ その辺りの、ヒットする発想のヒントってありますか?

ヒャダイン いやもう、愚直にがんばるしかないなと思いますよね。狙っても外しますし。でも狙わないといけない。

ラッキィ いつも狙いますか?

ヒャダイン うーん、やっぱりオファーされた以上は、狙いますよね。がんばりますよ。でもねぇ。

ラッキィ こればっかりはねぇ。あとね、僕が買ったおもしろい傘があるんですが、普通の傘とは反対で外側に骨がついていて、畳むと自立するんですよ。しかも、畳むと雨に濡れた面が内側になるので、電車に乗っても濡れないんです。

ヒャダイン うわ、めっちゃ斬新。

ラッキィ デザイナーの方は学生の時これを考えて、その後デザインの仕事に就いて「昔へんな傘を考案したな」と思い出して、100均の傘を作り替えて展示をしたら、今の販売元の社長さんが見に来て「おもしろい。製品化しよう。売れなくてもいい」と言ってくれたそうです。

ヒャダイン それ、重要ですよね。

ラッキィ 数量を作らないので、1万円近くするんですよ。それで発売前に女性のモニターを集めたら、すごく文句が出て。「かっこわるい」「はずかしい」と。

ヒャダイン 確かに、差したところは、小学生がふざけた感じですよね(笑)。

ラッキィ 1万円の傘をわざわざ買って、雨の日が年間何日あるのかとか言われて、社長が怒っちゃって「もういい! ああいう奥さんたちに売るのやめよう」と。「奥さんたちが好きな色を作るのやめよう」と(笑)。

ヒャダイン でも、こういうものを作り続けないと、クリエイティブの種火って消えちゃいますからね。なので、そこにお金を出してくれる太っ腹な方は必要なんですよ。

ラッキィ 失敗を恐れて意見が出しにくくなったり、「こういうことを言ったらばかにされるんじゃないか」とアイディアを出せなくなるのは寂しいですよね。

ヒャダイン 枯渇してしまいますからね。これはこれでいい、ここから何ができるか、という発想になってほしいですね。

ラッキィ 本にも書いた、子どもにお金儲けを体験させるセミナーがあって、3~4人のプロジェクトで商品を企画させるんですが、大人は「こんなもの売れないよ」とは一切言わないんです。

ヒャダイン おお、素敵。

ラッキィ その子どもの中に、自分で折った折り紙を売った子がいるんですよ。大人は内心、折り紙をいくらで買うの?と思ったらしいんですが、二年連続でその子の折り紙が完売した。商売って、ぬいぐるみの旅行会社の例を見ても、正直そんなものが仕事として成立するなんて、最初は誰も思わなかったりしますよね。

ヒャダイン コロンブスの卵のように、「その手があったか」と思うようなことってあるんですよね。

「新しさ」と「王道」のバランス

ラッキィ でも難しいのは、音楽でも新しすぎると耳ざわりがよくないんですよね。「どこかで聞いたことがあるけど新しいな」っていうぐらいがちょうどいい。そのバランスはどうですか?

ヒャダイン 新しいことをやりすぎて自己満足になってもいけないし、あと僕、逆にいうと王道があんまりできないんですよね。音楽教育をばっちり受けたわけじゃないので、いまだに曲の書き方をよく分かってないんです。

ラッキィ あ、それがいいですよ。

ヒャダイン 「なんちゃって」で作って、出したらオッケー!って言われて。

ラッキィ 本に書いた「子ども力」と同じで、正解が分からない分ワクワクしてるってことですよね。経験値が高くなりすぎると、型に嵌めやすくなってしまう。

ヒャダイン ルールがあんまり分かってないから、それっぽくはやっているんですが、知らないところで綻びが出たり、その綻びが個性になったり、王道ができないのをごまかすためにトリッキーな方向に振ったり。「できない! 逃げよう」とやってきたのが、今に至るので。

ラッキィ ヒャダインさんの音楽は、独自のプロセスで作っている感じがしますね。僕は今振り付けをチームでやっているんですが、僕のアイディアはほとんど却下です。最終的に決まるのは、まったく僕が考えたのとは違うものに……。

ヒャダイン それ、言っちゃって大丈夫ですか!?(笑)

ラッキィ 『帆を上げろ!』も、採用されたのはB案かC案ですよ。

ヒャダイン 最初はどんなのだったんですか?

ラッキィ いや、思い出せないですね。

ヒャダイン 僕もそうなんですよ、リテイクが入ったりして、新しく作ったら前のバージョンを忘れちゃうんですよね。「気に入ってるのに、直すの嫌だな」と思ったりするんですが、新しい方を作っているとそっちを気に入っちゃって。

ラッキィ そっちのワクワクのほうに行っちゃってね。

ヒャダイン なんでこんなものにしがみついてたんだ、と思ったり。僕も『帆を上げろ!』のサビは、最初全然違いました。3~4個書いて、最終的に採用されたのが何個目かも忘れちゃいました。そういう感覚は似てるかもしれませんね。ずっと新しいワクワクの方が楽しい。

(らっきぃいけだ 振付師)

(ひゃだいん 音楽クリエイター)

新潮社 波
2017年11月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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