宮部みゆきのこの短篇がスゴイ! その11――作家生活30周年記念・特別編

レビュー

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淋しい狩人

『淋しい狩人』

著者
宮部 みゆき [著]
出版社
新潮社
ISBN
9784101369174
価格
637円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

宮部みゆきのこの短篇がスゴイ! その11

[レビュアー] 佐藤誠一郎(編集者)

 今年、作家の宮部みゆきさんが、作家生活30周年を迎えられます。この記念すべきメモリアルイヤーに、宮部みゆきさんの単行本未収録エッセイやインタビュー、対談などを、年間を通じて掲載していきます。今回は特別編として新潮社で宮部みゆきさんを担当して25年の編集者で、新潮講座の人気講師でもある佐藤誠一郎が数ある名短編の中から選りすぐりの作品を紹介します。

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 短編連作、連作短編、連作長編……。いったいどこがどう違うんだろうと怪しむ方が多いと思います。これらの呼称は、あるまとまりを持った短編集、という意味ではほぼ同じものを指しての用語です。でも全く違いがないわけでもない。

 舞台や登場人物をあまり動かさずに描いた数編の短編を集めたものを、一般に「連作短編集」と呼び慣わしています。各短編のプロットはヴァリエーション豊かにその都度つくられるのが普通です。

 「連作長編」となるとやや趣が変わってくる。柱となる大きなテーマがあって、そのテーマに添いつつ各短編の設定が変わってゆくという形。主人公以外の登場人物が入れ替わりながらも、最終的には柱となるプロットが決着をみる、大きな謎が解明される、という流れをもったものです。

 今回から二度に分けて、この区別のややこしい両者を一作ずつご紹介します。

 まずは連作短編集『淋しい狩人』から。デビュー間もない1993年に刊行されたものです(新潮文庫所収)。

 作品集の舞台は古本屋です。これにはモデルがあって、作中では「田辺書店」となっていますが、実在の古書店は「たなべ書店」。荒川の土手下にある共同ビルの一階に六坪の店舗を構えているという設定ですけれど、モデルの方はかなりの大規模店です。

 宮部さんはデビュー前から「たなべ書店」を贔屓にしていて、まだ日本で名を知られる前のスティーヴン・キングの作品をはじめ様々な本をここで購入し、作家としてのインプットに精を出していたと聞いています。

 『淋しい狩人』は全六篇。本をめぐって様々な事件が起き、それを素人探偵よろしくイワさんとその孫の稔が解決してゆくという趣向です。

 田辺書店の創業者が死の間際にその存続を息子に託したが、息子は私服刑事になったばかりで、それではという訳で故人の親友だったイワさんが雇われ店主として経営を任されることになった。イマドキの青年・稔はそれを気まぐれに手伝っている、という設定です。

 表題作「淋しい狩人」には、行方知れずとなったある探偵小説作家の、自費出版された未完作品が登場します。そこに、結末部分を是非自分に書かせてほしいという依頼の葉書が舞い込んだ……。

 出版界では、物故作家の未完に終わった作品に現代作家が続きを書くという趣向のものが時々現れますが、これは一種の物故作家に対するオマージュなのでしょうね。しかしこの葉書の主の場合はどうなんだろう――その作家の娘は、悩んだ末に、蔵書の処分を依頼しているイワさんのもとに相談にやってきたのでした。

 物語は、その一件に加えて、稔の恋愛事件が絡んできます。孫がかなり年上の女性にたぶらかされているらしいということで、それまで何とも微笑ましかったイワさんと稔の間に亀裂が生じてくる……。

 未完の探偵小説をめぐる事件と稔のラヴアフェアーは、一つの修羅場をくぐり抜けて収まるべきところに収まります。その収め方のうまさは、まさに宮部流「世話物」の世界ならではの味わいです。

Book Bang編集部
2017年11月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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