北村薫×宮部みゆき 対談「時を超えて結ばれる魂」―作家生活30周年記念・秘蔵原稿公開

対談・鼎談

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スキップ

『スキップ』

著者
北村 薫 [著]
出版社
新潮社
ISBN
9784101373218
価格
853円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

時を超えて結ばれる魂

北村薫さん《時と人》シリーズ第三作『スキップ』刊行記念対談。宮部みゆきさんが、「徹子の部屋」の徹子さんのように、北村さんに本作、そしてシリーズについて、直球勝負で、聞いています!

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 待望の第三作

宮部 一読者としてこの作品の完成を待ち焦がれていました。ただ、これからお読みになる方にあまり内容をしゃべりたくない、ただ味わってほしい、という気がします。

北村 その辺、難しいですよね。特に最後のところは、言わないでほしいですね。

宮部 でも、今日の私は「徹子の部屋」の徹子さんですから(笑)、《時と人》のシリーズについてもいろいろお伺いしたいと思います。『スキップ』から『ターン』を経て『リセット』まで何年ですか。

北村 六年になりますね。

宮部 そうすると、二年に一冊のペースですね。最初から素材が三つあって三作と決めていらっしゃったんですか。

北村 三作とも、骨になるところは最初に全部あったんです。結末についても考えていました。時間の話というのは、前に帰る話がほとんどなので、違うパターンだと、どういうものがあるだろう、と考えたのが発端でした。『スキップ』だと、中年になったときに、もう少し別な人生はなかったのか、と思うことや、『ターン』だったら同じ毎日の繰り返しの中で一体、何を生み出すことができるのだろうか、というような徒労感とか。ただ、どの作品でも、それを書き始めると、材料になりそうなことが出てきたり、出会った人が偶然その話をしてくれたり、ということで、ふくらんでいくんですよね。

宮部 やはり、その作品に向けたアンテナが出ていて、キャッチできるんでしょうね。

 そうそう、北村さんは去年の夏、原因不明の高熱で入院されて、とっても心配したんですけれど、そのときのご体験もちゃんとこの小説に生かされていますよね。

北村 病院のベッドで横になって、ああ、こういう状況から書き始められるな、と考えていましたね。死ぬかもしれないと思ったときに、やはりいろいろ考えましたから。

宮部 ほんとうにこの小説にふさわしい状況設定だと思います。大変だったけれど、無駄にはならなかったという、作家の業みたいなものも感じますね。

 柔らかな気持ちで読める

北村 『リセット』は、時の流れということを書いているんですが、作者があまり説明するというのもちょっとね。

宮部 私は三作のなかで、この『リセット』がいちばん好きかもしれません。『スキップ』『ターン』の二作と違うと思ったのは、これまでの二作では、時が、主人公とその人を取り巻く状況に対して非常につらいものなんですよね。私は『スキップ』の設定には、自分が女だということもあって、なんて苛酷な話だろうと思ってしまったし、『ターン』もやっぱり切なかった。でも、『リセット』では時がやさしいんです。流れて運んでくれてめぐりめぐってまた戻ってくる。すごく長い時が流れているのに、どうなるんだろうと思いながらも、柔らかな気持ちでずっと読めました。

北村 『スキップ』でちょっとご不満の方は、『リセット』で少し安心してください。

 たまたま生まれ落ちた場所

北村 このシリーズは、三作とも、時とどう向かい合うかという話ですが、『スキップ』『ターン』は、単数の問題でした。『リセット』では、複数の問題になっています。人はみな、生まれるときに、その環境を選べない。そういう不条理を含めて、その中で生きていく人間という存在に想いを致していただければ、と思って書いていました。今の日本は本当に豊かで、世界の歴史の中でも珍しい時代にいるわけですけれど、ちょっと生まれる場所が違っていたら、そうはいかないわけですからね。

宮部 そうですね。北村さんや私ぐらいの世代はまだ日本が貧しかった時代を知っていますけれど、いまの二十代の人は日本がアメリカと戦争をしていたことを知らなかったりしますからね。それぐらい感覚が離れている中で、戦時中、日本のあるところで、こういう少女時代、青春時代があって、そのあとに、今の日本がある、ということを、『リセット』を読みながら、感じてほしいですね。

北村 『リセット』には太平洋戦争末期の神戸の女学生真澄が登場しますが、この作品は歴史的な状況や事実を元にしても、基本的には、どこの国でも、通じる話だろうし、苛酷な状況に投げ込まれて生きていくということはいつの時代でも、同じだと思うんですよ。
宮部 そうですね。『リセット』を読み返している時に、アルプスのケーブルカーの事故が起きて、中学生が亡くなられて。本当に、世界のどこでも、どの時代でもこういう災禍で命を落とされる方がいるわけで。もう一度、生まれ変わってきてくれるといいな、そうあって欲しいな、と思いました。

北村 当事者のことを考えたら、到底、言葉にならないんですが、やっぱりそういう悲惨な、苛酷な状況に追い込まれた人たちには何とか救われてほしい、という祈りがありますよね。

宮部 いまおっしゃった祈りとか、願いという言葉が強く心に残る作品ですね。

新潮社 波
2001年1月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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