何とも刺激的な書物 視覚的な愉しみと旺盛な知識欲を満たしてくれる

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図鑑 デザイン全史

『図鑑 デザイン全史』

著者
柏木博 [監修]/橋本優子 [訳]/井上雅人 [訳]/天内大樹 [訳]
出版社
東京書籍
ISBN
9784487810345
発売日
2017/07/06
価格
6,380円(税込)

書籍情報:openBD

何とも刺激的な書物 視覚的な愉しみと旺盛な知識欲を満たしてくれる

[レビュアー] 暮沢剛巳(東京工科大学教授)

色鮮やかな写真やイラストが豊富に掲載された図鑑は、視覚的な愉しみと旺盛な知識欲を満たしてくれる何とも刺激的な書物である。子どもの頃、図鑑を眺めることはひそかな楽しみの1つだった。

本書のページをめくっていて、久しく忘れていたその興奮を思い出した。図鑑の対象ジャンルというとまず動植物、鉱物、乗り物などが思い浮かぶが、表紙に掲載されたバラエティ豊かな数々の品々は、デザイン史もまた図鑑の対象ジャンルにふさわしいことを納得させてくれる。

「全史」としての本書が扱っているのは19世紀後半から21世紀の現在までのデザインの変遷である。これは、文化史としてのデザイン史がイギリスのアーツアンドクラフツ運動(A&C)に発祥するという定説に寄っている。その他、巻頭の「デザインとは何か」では、約1半世紀半のデザイン史の流れが「A&C」から「コンテンポラリー」までの16のカテゴリーに分けられていることや、「色彩」「プロポーション」「かたちとフォルム」「パターンとテクスチャー」といった諸要素に注目していることが簡潔に述べられている。読者の多くを占める初学者を念頭に置いているのだろう。

定説に依拠した書物らしく、A&Cからアール・ヌーヴォー、アール・デコ、モダニズム、ポストモダンへと展開する本書の歴史記述はいたってオーソドックスだが、なかには唯美主義やポップアートなど同時代の美術への言及も散見される。日本語版の監修者柏木博はデザイン史を「私たちが身に着けるべき基本的な文化史」と位置付けているが、恐らく原著者も同様の認識を共有しているに違いない。

図鑑の最大の魅力と言えば、やはり豊富で色鮮やかな図版の数々である。その点本書は、ウィリアム・モリス、ガウディ、フランク・ロイド・ライト、アキッレ・カスティリオーニ、ジョナサン・アイヴなどデザイナー数にして約500名、リンカーン・ゼファー、サヴォワ邸、バルセロナ・チェアなど作品数にして約1600点もの図版がオールカラーで収録されているのだから圧巻だ。これらの図版を通じて、読者はティファニー、ダイソー、マリメッコなどの各種ブランドや、グラフィック、タイポグラフィ、ジュエリー、建築から、工業製品、電化製品、家具食器などプロダクトデザインや日用品などの各ジャンルのデザインについても深く知ることができる。日本のデザインやデザイナーが一定数収録されているのも、日本の読者向けのサーヴィスというよりは、ある程度評価の定まったものを紹介しようとした結果なのだろう。

博物学的な図鑑は日本独自の出版文化であるとも言われるが、本書を通読すると、外国にも優れた図鑑があることがよくわかるし、出版早々に本書に寄せられた多大な反響は、良質な図鑑の需要が決して少なくないことを物語ってもいる。出版不況の折、高額な書籍の出版が困難なことは承知しているが、本書に続く優れた図鑑の出版を強く望みたい。

週刊読書人
2017年9月1日号(第3205号) 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読書人

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