『さらに悩ましい国語辞典 : 辞書編集者を惑わす日本語の不思議!』
- 著者
- 神永, 曉, 1956-
- 出版社
- 時事通信社
- ISBN
- 9784788715295
- 価格
- 1,760円(税込)
書籍情報:openBD
前著よりさらに視野が広がる ことばの移り変わりをたのしむ著者の姿勢
[レビュアー] 円満字二郎(編集者・ライター)
二〇一五年の年末に刊行された、『悩ましい国語辞典 辞書編集者だけが知っていることばの深層』の続編。前著同様、ことばの「誤用」についてさまざまな例を取り上げて、読者をおもしろがらせ、勉強させてくれる。
たとえば、「アンケートをする」と「アンケートをとる」とでは、どちらが自然な言い方なのか。あるいは、「逆鱗に触れる」とは、どういう相手を激怒させるときに使うべきことばなのか。さらには、「願わくは」と「願わくば」はどちらが正しいのか。もちろん、「忖度」だとか「ほぼほぼ」だとかいった、最近、話題の目新しいことばについて寸評を加えることも、忘れてはいない。
ただ、前著にくらべると、ことばを取り上げる際の視野が、さらに広がっているように感じる。「誤用」なのかそうでないのかを判断するだけでなく、ことばに関する興味深い事象を、いろいろと紹介してくれているのだ。
いくつか例を挙げれば、「携帯電話」ということばは明治時代からあったとか。最近では、「銀ぶら」を「銀座でブラジルコーヒーを飲むことだ」とする説が出回っているとか。実は「ホッチキス」は語源がはっきりしないことばなのだとか。「五十音図」が書けない大学生がいるという話にはぶっ飛んだし、カタカナの「ヲ」の正しい筆順には、なるほど! と大きく縦に首を振ったものだ。
本書の記述の底に流れているのは、ことばの移り変わりをどこかでおもしろがっている、著者の姿勢である。辞書の編集者というと、しかつめらしい顔をして仕事をしていると思われがちだ。しかし、三十七年もこの仕事をしてきた神永氏は、さすがに違う。
本書の元になったWEB連載は、今なお継続中だ。そう遠くない将来、第三弾も出ることだろう。シリーズを通じて、他人のことばの「誤用」を指摘して喜ぶような態度ではなく、ことばの移り変わりをたのしむ姿勢が、広く読者の間に培われていくことを望みたい。