AIと共存できる? 「考えること」のメリットとは?

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考える練習帳

『考える練習帳』

著者
細谷 功 [著]
出版社
ダイヤモンド社
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784478100974
発売日
2017/10/27
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

AIと共存できる? 「考えること」のメリットとは?

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

考える練習帳』(細谷功著、ダイヤモンド社)の著者は、本書の冒頭で次のように主張しています。

AIやクラウドコンピューティングといったICT(情報通信技術)の飛躍的な発展に伴って、「単に多くのことを記憶している」ことの価値が下がり続けています。

また、人間の仕事の中でも単に定型的な仕事だけでなく、これまでは知的な仕事と考えられていた仕事、特に「知識や経験の量で勝負する」仕事は、次々と機械に置き換わっていくことになるでしょう。

そんな時代に人間がすべきこと、必要とされることは何なのでしょうか?

それが「自分の頭で考えること」です。

その力を持つことによって、私たちは、より自分らしい人生が遅れるようになります。(「はじめに」より)

でも、考えることで、なにがどう変わるのでしょうか? 第1章「『考える』と、何かいいことがあるの?」からヒントを探してみましょう。

考えることには、多くのメリットがある

「考える」という行為については、「面倒で、時間もかかり、場合によっては無理をしなければならないこと」というようなイメージがあるかもしれません。もちろん、ある意味においてはそれも間違いではないでしょう。しかし、そこには計り知れないほどのメリットがあるのだと著者は主張しています。

1つの側面として、この「考える」という行為には、他のどの行為にもない「汎用性」、つまり、場面に応用できるという一般性があります。

たとえば、「投げる」や「走る」という物理的な行為は(スポーツ選手でもない限りは)一日にあっても数回でしょう 。

また、「怒る」や「喜ぶ」と言った感情に近い行為も、そんなに四六時中起きるわけではありません。(20ページより)

しかし「考える」という行為は、ありとあらゆる場面において(やろうと思えば)、ほとんどすべての行動に伴ってできる行為なのだといいます。そのため「考え方」が変わると、すべての言動に変化が出てくるのです。もちろんそれは、いい方向もあれば悪い方向もあるわけですが、本書ではそれを「いい方向」に持っていくことを目指しているということです。(20ページより)

1. 世界が変わって見える

世界が変わって見えるだなんて大げさなようにも思えますが、これは考えることによる最大の変化だといえるといいます。端的にいえば、「目に見えないもの」が抜本的に変化するということ。それは「認識」であり、人間と他の動物を分かつ最も大きな差だというのです。いいかえれば、ひとつの事象を捉えても、人によって大きな認識の差が出てくるということです。

たとえばひとつのりんごを目にした場合にも、「おいしそう」「赤がとてもきれい」「どこで採れたんだろう?」「なんの料理に使えるだろう?」など、人による認識はさまざま。このように、ひとつの「目に見えるもの」から無数の「目に見えないもの」に思いを及ぼす頭のなかの行為が、他の動物にくらべて決定的に発達しているというのです。

そして「考える」という行為は、こうした認識レベルに劇的な変化をもたらすのだとか。さまざまな目の前の事象からいかに思いを広げ、それをどのように未来に向けて発展させていけるか? それが人間の知的能力であり、その基本となるのが「考える」という行為。つまり人間のさまざまな悩みや無限の可能性も、すべて「考える」という行為が握っているということ。

目の前で起こっている事象は誰にとっても同じです。しかし、そこから一人ひとり違う人生が発展していくのは、ひとえにそれをどう捉え、どのように発展させるのかという個人の思考の結果が反映されているからなのです。(22ページより)

2. 「先が読める」ようになる

知識や経験が「過去の集大成」だとすれば、考えることはこれから先のことに役立つはずだと著者はいいます。知識や経験を増やすことの大きな目的は、それを今後の人生に活かしていくこと。そこには知識や経験の量も影響しますが、さらに活かすためには考える力が必要だといいます。

「知的能力とはなんなのか」という問いに対する答えのひとつが、「一を聞いて十を知る」ということ。先人が積み重ねて着たことを学ぶのも、それを自分に当てはめて別の機会に役立てることができるから。もちろん自分が経験したことは、学びの源として大きいものです。しかし、そこに応用を利かせることができなければ、まったく同じ状況が再度現れない限り、次に役立つ機会はないわけです。

しかし、ひとつの学びを異なる機会に応用させることができるのであれば、それは大きな武器になるはず。つまり動物と異なる人間の武器は、「個別事象を一般化してさまざまな場面に応用させる」ことなのだと著者はいいます。たとえば典型的なのが科学技術。物理などの法則を学ぶことは、まさに「一を聞いて十を知る」こと。ひとつの法則が無数の応用へとつながり、それがさまざまな新しい技術となって人間の生活を豊かにしていくわけです。

これは他の動物よりも人間が圧倒的に優れている証拠であり、ここに「考える力」が大きく貢献しているということ。そのため「過去から未来への類推(先が読める)」が可能になるのです。

過去の知識や経験を活かすためには、経験を増やすこと以上に、そこで得た知識を「いかに一般化できるか」が重要。なぜなら一般化することで、知識や経験を何倍もの形で未来に向けて活かしていけるから。そして一般化するためには、「考える」ことが不可欠だという考え方です。(26ページより)

3. 「自由に」なれる

人類の歴史は、ある意味で「自由の獲得の歴史」。乗り物によって距離という制約をなくしたり、火や冷凍技術によって食物を時間という制約から自由にしたり、お金という発明によってものの交換を自由にしたり、民主主義という社会システムのか初によって独裁者の支配から自由になったり…それらはすべて人間が知的創造(考えること)によって生み出したのです。

どんなに物理的制約されていようとも、頭のなかは自由であるはず。つまり、それが「考える」ということ。そのため、まずは自由に構想することから、物理的な制約を取り払うための第一歩が始まるのだといいます。そしてそれが、世界を変えるさまざまなイノベーションに変わっていくわけです。(28ページより)

4. AIとうまく共存できる

AIについて「人間の考える力」という文脈で考えると、まずは現状でAIが得意なことと不得意なことを整理し、そのうえで「今後AIに任せればいいこと」と「人間がさらに強化していくこと」を見極め、そこで「考える力」を養うことの意味合いを改めて位置づけることが大切なのだと著者。だとすれば、そのためにはAIが得意なことと不得意なことを確認しておく必要がありそうです。

AIが得意なこと

・ 与えられた問題を解く

・ 定義が明確な問題を扱う

・ 指標を最適化する

・ 膨大な情報を検索する

・ 具体的なことを扱う

・ ルールを守る

・ 「閉じた系」を扱う

AIが不得意なこと

・ 問題そのものを考える

・ 定義が不明確な問題を扱う

・ 指標そのものを考える

・ 少ない情報から創造する

・ 抽象的なことを扱う

・ ルールをつくりなおす

・ 「開いた系」を扱う

(以上、32ページより)

このように、AIが得意なこと、不得意なことを頭に入れておくことは大切。AIが得意なことはどんどんAIにやらせ、人間は人間にしかできないことに集中すれば、私たちの日常が豊かになっていくわけです。そして、そのための最も強力な武器のひとつが「自ら考えること」だということ。(30ページより)

5. 仕事や勉強ができるようになり、人生が楽しくなる

ただし当然ながらメリットばかりではなく、考えることによるデメリットも少なくありません。そもそも絶対的によいものも悪いものもなく、正しいものも間違っているものもなく、すべては環境や状況次第。だからこそ、デメリットも踏まえたうえで考えれば、考えることには大きなプラスがあるということになります。

究極的に言えば、「考えること」自体が私達の幸せにつながらなければ、一生懸命習得して実践したところで意味はありません。

つまり、「考えること」が日々の仕事や勉強、あるいは、日常生活を含めた人生そのものに潤いを与え、楽しく過ごせるようになるというのが究極の目標です。(36ページより)

ただし、それには多少のトレーニングも必要。できるようになってしまえばメリットはたくさんあっても、そこにたどり着くまでには、いままでの習慣を変えたり、ある一定の時間をとって練習したりすることも必要になるということ。いわば、それらをサポートするために本書は書かれているわけです。(36ページより)

以後の章では、「考える」方法や工夫について具体的な解説がなされています。さまざまな価値観が変わり続ける時代だからこそ、ぜひとも読んでおきたい1冊だといえるでしょう。

メディアジーン lifehacker
2017年11月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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