『和辻哲郎と昭和の悲劇』小堀桂一郎著
[レビュアー] 産経新聞社
なぜ日本の知識人は、たった一度の敗戦によってかくも変節し、卑屈になってしまったのか-。それが本書のテーマだ。占領軍による日本の伝統破壊工作を明らかにした上で、それに抵抗することなく迎合した学問世界の内面をあぶり出している。一方、敗戦後も自己本来の立場を貫き通した、誇り高き知識人もいた。その代表格である倫理学者の和辻哲郎を、著者は「思想界激動期の不動の指標」と位置づける。和辻とて、揺らぎがなかったわけではない。思想的に葛藤し、苦悶(くもん)した。和辻の足跡をたどることは、混迷する現代の思想界においてこそ意義がある。(PHP新書・920円+税)