[本の森 ホラー・ミステリ]『屍人荘の殺人』今村昌弘/『金木犀と彼女の時間』彩坂美月/『賛美せよ、と成功は言った』石持浅海

レビュー

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  • 屍人荘の殺人 = Murders at the House of Death
  • 金木犀と彼女の時間
  • 賛美せよ、と成功は言った(ノン・ノベル)

書籍情報:openBD

[本の森 ホラー・ミステリ]『屍人荘の殺人』今村昌弘/『金木犀と彼女の時間』彩坂美月/『賛美せよ、と成功は言った』石持浅海

[レビュアー] 村上貴史(書評家)

 今年の鮎川哲也賞受賞作が強烈だ。今村昌弘『屍人荘の殺人』(東京創元社)である。もう全部が強烈。ここまでインパクトの強いミステリには、滅多にお目にかかれるものではない。

 物語の進行はむしろ典型的だ。主人公である大学一回生の葉村譲は、所属するミステリ愛好会の先輩であり“名探偵”でもある三回生の明智恭介とともに、映画研究部の合宿に参加する。同じ大学のもう一人の名探偵、剣崎比留子の導きによるものだった。ペンション紫湛荘での合宿初日は、ホラームービー撮影やバーベキュー、肝試しと進行するが、その最中に事件が……。

 この紫湛荘が、読者の期待通りにクローズドサークル(密閉環境)になるのだが、まずはそれが新鮮きわまりない。一般にこの環境は大雪や嵐などで成立するが、本書の場合、呆れるほどに斬新なかたちで葉村たちは紫湛荘に封じ込められるのである。この設定/着想だけで、もう満点をあげたくなる。だが当然ながらそれだけでは終わらず、これまた読者の期待通り、紫湛荘内で人が次々と殺されていく。それも、密室状態とか奇妙なメッセージとか奇っ怪な死体の状況とか、そうした彩りを伴って殺人が連続するのだ。ファンタスティック! その果てにある謎解きも、圧倒的に素晴らしい。不可解な死体の状況は真相を知ると必然としか思えなくなるし、細かな手掛かりを積み重ねることで犯人を特定していくロジックの丁寧さも嬉しい。特異なクローズドサークルという状況を、犯人が巧みに利用している点も脳を刺激する。とにかく読者の予想を超えたかたちで事件が進行し、意外かつロジカルに解かれるのだ。ミステリ好きをとことん幸せにしてくれる。さらにそこに、名探偵は何故事件を解くのか、という興味までもが新鮮な味付けでトッピングされていて、満腹にして満足。破格のデビュー作に狂喜しかない。

 かつて鮎川哲也賞候補となったこともある彩坂美月『金木犀と彼女の時間』(東京創元社)は、同じ時間を繰り返し生きてしまう女子高生の物語。特定の一時間が五回繰り返されるという彼女の特殊状況を著者は巧みに操り、男子生徒の死を防ごうとするヒロインの奮闘を、その世代の生々しい“毒”の部分も含めて、瑞々しく、かつ意外性に富んだサスペンスに仕上げた。

 石持浅海『賛美せよ、と成功は言った』(祥伝社)には、抜群の推理力と観察眼と冷徹さを兼ね備えた碓氷優佳が六年ぶりに登場する。優佳たちが集まった祝賀会で撲殺事件が起きた。事件は皆の目の前で発生し、撲殺犯も明確に特定されている。つまりはミステリとしてフーダニット興味もハウダニット興味もない状況なのだが、石持浅海はそこから緊迫した長編推理劇を紡ぎ出してみせた。プロの手腕を満喫せよ。

新潮社 小説新潮
2017年12月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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