『ケンブリッジ大学図書館と近代日本研究の歩み』 小山騰著

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ケンブリッジ大学図書館と近代日本研究の歩み

『ケンブリッジ大学図書館と近代日本研究の歩み』

著者
小山騰 [著]
出版社
勉誠出版
ジャンル
総記/総記
ISBN
9784585200581
発売日
2017/08/31
価格
3,456円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『ケンブリッジ大学図書館と近代日本研究の歩み』 小山騰著

[レビュアー] 奈良岡聰智(政治史学者・京大教授)

西洋との知的交流の源

 欧米の有力大学図書館には、日本関係の貴重資料を所蔵するところが少なくない。英国ケンブリッジ大学図書館もその一つである。本書は、長年同館に勤務した著者がその古典籍コレクションを分析し、近代的な方法論に基づく日本研究がいかに創始されたのかを考察している。

 コレクションの中核をなすのは、幕末・明治期に活躍した日本通の外交官アーネスト・サトウらの膨大な蔵書である。サトウは英国人であるが、日本人との混血と誤解されるほど、日本語を巧みに使いこなした。サトウの膨大な蔵書には、平田篤胤(あつたね)、本居宣長らの国学・神道関係の文献が数多く含まれ、彼自身による書き込みまで残されている。著者は、サトウが江戸時代に発展した国学について学ぶことで、日本社会の基層への理解を深め、さらにはその研究成果を英語で世界に発信することによって、日本研究の先駆者の一人となったと指摘している。

 本書の分析を通して、「英国の三大日本学者」とされるサトウ、アストン、チェンバレンが、互いに啓発し合いながら、日本研究を進めていった様が見えてくる。彼らが導入した近代的な学問の方法論は、やがて国語学の上田万年、歴史学の三上参次、国文学の芳賀矢一らに受け継がれ、新世代の日本人による日本研究を生み出した。かの柳田国男も、イギリスの日本研究から刺激を受けていたという。こうして日本研究は学問的分野として確立し、やがて逆に、欧米の人文・社会科学にもインパクトを与える存在となっていく。今日の西洋世界と日本の間の豊穣(ほうじょう)な知的交流は、その延長線上にある。

 サトウの回顧録『一外交官の見た明治維新』(岩波文庫)は、明治維新の裏面を活写した名著として名高い。本書を読んだ上で改めてこの回顧録に目を通すと、サトウの外交官としての活動がいかに深い学識に支えられていたかもよく理解できる。「知の巨人」の残した遺産から、教えられることは多い。

 ◇こやま・のぼる=1948年愛知県生まれ。国会図書館勤務を経て、ケンブリッジ大図書館日本部長を務めた。

 勉誠出版 3200円

読売新聞
2017年11月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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