『スター女優の文化社会学』 北村匡平著

レビュー

3
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

スター女優の文化社会学

『スター女優の文化社会学』

著者
北村匡平 [著]
出版社
作品社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784861826511
発売日
2017/09/22
価格
3,024円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『スター女優の文化社会学』 北村匡平著

[レビュアー] 安藤宏(国文学者・東京大教授)

清楚と妖艶、戦後の本音

 原節子と京マチ子。一九四〇~五〇年代に活躍した二人の国民的大女優の分析を通し、「戦争」と「アメリカ」をめぐる、大衆のうちなる傷痕をあぶり出していく試み。

 清楚(せいそ)で知的な原節子と妖艶(ようえん)な肉体美を誇る京マチ子は一見対照的だが、実は奇妙な共通点がある。原節子の映像には抑制された官能が漂っているし、京マチ子もまた、一方でしとやかな淑女という性格を合わせ持っていた。仮に街の私娼(ししょう)(パンパン)たちが戦後の「敗者の身体」を表象していたとするなら、スター女優にはアメリカを受け入れつつも完全には従属しない、毅然(きぜん)とした姿勢が求められる。二人はそれぞれ異なる「顔」を持つからこそ、占領期の寵児(ちょうじ)として迎え入れられたわけである。

 実は原は、戦中からすでに花形女優だったのだが、多くの女優たちが戦後凋落(ちょうらく)していく中で、一転して民主主義の伝道師として輝くことができた。清楚でありながらも無鉄砲、という異なる「顔」を持つために、戦中にあっては民衆のうちに潜んでいたモダニズムへの憧れを体現し、戦後にあっては、その古風な慎みが、失われたものへの郷愁を呼び起こす結果になったのである。

 京マチ子は、黒澤明の「羅生門」出演をきっかけに、肉体派から国際派へと一躍変貌(へんぼう)を遂げていった。伝統的な古典美を演じることによってオリエンタリズムを体現し、同時にまた、それによって西洋から認められたいという、敗戦国のトラウマを体現する存在になったのだという。このように国民的なスターは、時代の最前線を表象しつつも、同時にそこに収まりきらないズレを合わせ持っている。そこに時代の隠された“本音”を読み取っていくワザに本書の真骨頂があるとみてよいだろう。スチール写真の数々は見ていて理屈抜きに楽しい。直接お二方(原節子は一昨年に逝去)に本書の感想を聞いてみたいものだ、としみじみ思う。

 ◇きたむら・きょうへい=1982年山口県生まれ。東京大大学院博士課程在籍。専門は映画学、歴史社会学。

 作品社 2800円

読売新聞
2017年11月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加