『杉山城の時代』 西股総生著

レビュー

4
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杉山城の時代

『杉山城の時代』

著者
西股 総生 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784047036147
発売日
2017/10/27
価格
1,836円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『杉山城の時代』 西股総生著

[レビュアー] 清水克行(日本史学者・明治大教授)

研究者たちの熱き闘い

 戦国時代の城の研究には、二つのアプローチがある。一つは城跡の地表面の堀や土塁を計測して図面をとる縄張り研究のアプローチ。もう一つは地中を発掘して遺物や遺構を確認する考古学のアプローチ。

 ところが、この二つのアプローチが一つの城跡の評価をめぐって真っ二つに割れてしまった。それが世に言う「杉山城問題」。杉山城は埼玉県嵐山(らんざん)町にある、まったく無名の城跡で、築城年も城主も明らかではない。ただ、その迷路のような防御構造は緻密(ちみつ)かつ論理的で、専門家からは城郭の「最高傑作」とまで呼ばれている。そのため縄張り研究では、16世紀後半に関東を席捲(せっけん)した後北条氏による築城と考えられてきた。ところが、今世紀に入って考古学の発掘により、築城年は通説よりも100~50年前に遡るという結果が出てしまったのだ。これまでの縄張り研究の実績を信じるか、最新の考古学の成果を信じるか。この問題をめぐって、いくつものシンポジウムや研究論文が発表され、熱い議論が交わされている。

 本書は、そのうち縄張り研究の立場からの主張である。とくに他の16世紀前半の築城が確実な城跡の構造との比較で、杉山城が当該期の築城ではありえないことを論証するくだりは縄張り研究の真骨頂で、この一書で「杉山城問題」にとどまらず、縄張り研究の来歴と長所を簡便に把握することができる。著者の筆致は「論敵」に対しても敬意に溢(あふ)れており、清々(すがすが)しい。ただし、「なぜ発掘調査による物証を信じないのか」という問いに、「物証を信じるかどうかは信心の問題」と居直ってしまっているのは、著者らしからぬ筆の滑りか。物証に納得できないのなら、その「物証」が真に物証たりえるかの議論に進むべきであって、それでは、生み出されるのは建設的な議論ではなく、沈黙だけだろう。

 はたして「杉山城」に城主は見つかるのか? 違う立場からの別の意見にも耳を傾けたくなった。

 ◇にしまた・ふさお=1961年生まれ。城郭・戦国史研究家。NHK大河ドラマ「真田丸」で戦国軍事考証を担当。

 角川選書 1700円

読売新聞
2017年11月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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