<東北の本棚>大槻の人間味あふれる
[レビュアー] 河北新報
仙台藩出身の国語学者大槻文彦(1847~1928年)が明治~昭和初期にかけて編集した近代国語辞書の祖「大言海」。この辞書を「調べ物」だけでなく、大槻の人間味がにじみ出た「読み物」として愛してやまない著者が、お気に入りの見出し語約340語を例にその魅力を語る。
蘭学者大槻玄沢を祖父とする文彦は、明治新政府の命で国語辞書「言海」を編集した。大言海はその増訂版。筆者が着目するのは、皆で編集した辞書と違い、解説に個人的主観が色濃く反映されている点だ。
たとえば「阿波鳴門」。潮の流れの速さに加え、世界一の景勝と絶賛する説明に対し、筆者は「ちょっとオーバーでは。せめて日本一くらいにしては」と思わず突っ込む。「ライスカレエ」では「次に、フライ鍋にバタを溶かし、玉葱(たまねぎ)を細かに切りたるものを狐(きつね)色に炒め…」と、妙に親切な解説がまるでレシピ本のようだと面白がる。
「仙台味噌(みそ)」を極めて美味と記すなど、仙台が絡むと冗舌になるのも大言海の特徴という。著者は「完全なひいき。ただ気持ちは分かる」と苦笑い。「イチョウ」では「此語源は、予が三四十年間、苦心して得たるものなり」と語源探しの苦労話が始まり、著者は「本人が顔を出すとは」と驚きながらも「苦心の末に解明し、書かずにいられなかったのだろう」と思いをはせる。
大言海の解説には度々誤りも指摘されるが、筆者は「それもご愛敬(あいきょう)。誰でも知っている通り一遍の語釈など辟易(へきえき)だ。間違いもまた楽しからずや」と意に介さない。
著者は1951年いわき市生まれ。明治学院大卒。千葉明徳高で英語教師を務めた。
文芸社03(5369)3060=1620円。