<東北の本棚>防災庁舎の教訓伝える

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<東北の本棚>防災庁舎の教訓伝える

[レビュアー] 河北新報

 東日本大震災の津波で宮城県南三陸町防災対策庁舎では職員33人を含む43人が死亡、行方不明になった。骨組みだけになった庁舎は2031年まで県が管理し、この間に町は震災遺構として保存するかどうかを判断する。
 本書は、高さ12メートルの庁舎を超える15.5メートルの津波に襲われながらも助かった11人のうち、佐藤仁町長ら10人へのインタビューを踏まえ、課題や教訓をまとめた。
 佐藤町長は地震発生時、本庁舎の町議会議場で3月定例会閉会のあいさつ中だった。隣接の防災対策庁舎に移り、「マグニチュード7.9、予想津波高さは宮城県沿岸で6メートル」との気象庁発表に対し、5.5メートルの防潮堤がはね返してくれるものと考えた。引き波が始まり職員に屋上への避難を促して自らも向かうと、約40人の職員がいた。津波にのまれながらも生き残った他の9人と3階でたき火をして寒さをしのぐ。翌日無残な町の姿を目の当たりにし、「拾った命、残りの人生すべて町に捧(ささ)げる」と誓った。
 当時、町民税務課・納税特別チームに所属していた三浦勝美さんは屋上から流される。もうだめだと思った瞬間、防寒着に空気が入って水面に顔を出すことができた。浮いていた畳に上がり、野戦病院状態でごった返す公立志津川病院に漂着して救われた。今、町民にヘルメットとライフジャケットを足元に置くようにと呼び掛けているという。
 最終章で著者は津波防災10カ条として「建物の耐震化と高台などの安全な場所に住む」「想定津波高さの2倍以上の高所に避難すべき」などを提示する。「防災庁舎で尊い犠牲を払って得た教訓は人類共通の教訓となる」。後書きの言葉がずしりと響く。
 著者は防災・危機管理アドバイザーとして国内外の災害調査を実施し、防災講演を続ける。著書に「スマート防災」「防災格言」など。
 ぎょうせい03(6892)6666=1944円。

河北新報
2017年11月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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