自動車産業は「象の墓場」になるのか
[レビュアー] 楡周平(作家)
いまや、自動車業界には次世代車はEVという流れができあがったと言っても過言ではあるまい。最大の難点と言われた、電池の容量、充電時間も新型電池の出現で、解決の目処が立ちつつある。
EVが次世代車ということになれば、既存の自動車業界に及ぼすインパクトはあまりにも大きい。すでに、ダイソンやヤマダ電機等々、異業種がEV市場への参入を表明しているが、EVとガソリン車は、全く似て非なるもの。極端な話、ほとんどの部品は外部調達可能、その時点でベストと思われるパーツの組み合わせでEVができてしまうのだ。
さて、そうなると既存の自動車メーカーの強みであった、自社開発、部品調達は傘下系列企業からという、いわゆる垂直統合型の産業構造はむしろ弱点になる。外部調達を始めれば系列企業の経営が悪化する。新たな人材が必要になる反面、不要になる人材も数多く発生するであろうし、車一台あたりの部品点数は、ガソリン車の半分以下だから、事業規模を維持することは困難である。
まさに、既存メーカーにとっては悪夢のような話だが、新技術の出現が、一つの産業を過去のものとし、世界に冠たる巨大企業でさえも、あっという間に駆逐してしまうのは、フィルム産業を舞台にした拙著「象の墓場」に書いた通りである。
自動車市場はとてつもなく巨大なものだ。ましてEVともなれば、いま世界中を走っている自動車が全て置き換わる可能性があるのだから、ビッグチャンスの到来。その一角でもものにせんと、新旧入り交じっての凄まじい戦いが繰り広げられることになるだろう。
守ろうとする者、奪おうとする者の熱き戦いを描いたのが、本書『デッド・オア・アライブ』である。ぜひ、ご一読願いたい。