襷がアンカーに渡るまで――『襷を我が手に』著者新刊エッセイ 蓮見恭子

エッセイ

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襷を我が手に

『襷を我が手に』

著者
蓮見恭子 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334911959
発売日
2017/11/15
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

襷がアンカーに渡るまで

[レビュアー] 蓮見恭子(作家)

 駅伝名門校の順天堂大学では、一区は「度胸」、二区は「起動力」、中間区間はその場の空気を読める「頭脳派」、アンカーには「安定感」を求めると言います。

 本が刊行される過程も、まさにスリリングな襷リレーです。

 一区を走るのは著者です。二区を走る担当編集者に襷、もとい原稿を勝負できる位置で渡す責任があります。駅伝は前半で波に乗る事が大切なので、著者がブレーキを起こすと大変です。トラック競技と同じように一斉にスタートする一区と違い、後の区間は襷を受け取った時の順位や状況によって、臨機応変に判断する力が求められるからです。

 ありがたい事に、前作『襷を、君に。』は、二〇一七年に多くの公立高校や私立中学校の入試に出題されました。これも偏に、当時の担当だったうら若き女性編集者の激走の賜物と感謝しています。元陸上部員の彼女は出版の現場でも俊足ランナーで、二区でゴボウ抜きして拙著を引き上げてくれました。

 また、前作を売り出す際、フォトショップを駆使して宣伝素材を自作し、販促に努めてくれた販売部員の青年が、今回は担当編集者として第一中継所で待機していました。後ろの区間を走った経験があるランナーです。著者が知らないコースも熟知しているのですから、心強いです。

 そして、伴走しながら著者を激励し、ランナーを見守っていた監督(編集長)の力添えと、商品として磨きをかけて下さった後工程の皆さまのご尽力で、新作『襷を我が手に』は今、アンカーが待つ中継所・書店へと向かっています。

 そうです。アンカーは読者の皆さまです。

 本作には、仲間の為に必死で襷を繋ぐ女子大生ランナー達の健気さが、苦悩する新米指導者の視点で描かれています。彼女達と共に走り、フィニッシュラインを越えた時、きっと気持ちの良い汗が噴き出しているでしょう。

光文社 小説宝石
2017年12月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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