文化祭の前日――『シネマコンプレックス』著者新刊エッセイ 畑野智美

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シネマコンプレックス

『シネマコンプレックス』

著者
畑野智美 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334911942
発売日
2017/11/15
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

文化祭の前日

[レビュアー] 畑野智美(作家)

十年以上前、私は都内にある某シネコンで、アルバイトをしていた。

 そのシネコンの入る商業施設自体がまだ工事中で、都心に円筒形の高いビルをドンッと建てているものの、どうなるかわからなかった時から研修に参加し、オープニングスタッフというやつになった。

 当時の私はフリーターだったので、アルバイト以外にやることがない。とにかくお金が欲しくて、朝も昼も夜も、ひたすら働いた。社員から「住んでるの?」と聞かれるくらい、出勤しつづけた。シネコンの仕事はいくつかにわかれている。私は、チケットをもぎったり館内清掃をしたりする「フロア」と呼ばれるセクションに配属されていた。スケジュール通り開場するために、一日中走り回る。

 オープンして三ヵ月が経った頃に新人が入ってきた。その後も、夏休みや冬休みという繁忙期の前には、新人が増えていく。アルバイトは総勢で百人以上いるが、社員は十人もいない。一番先輩であるオープニングスタッフは、好き放題できた。わかりやすく言うと「部活を牛耳っている高三」のような立場だ。人数が多くなると、アルバイト同士のトラブルが起こることもあった。そういう時に、どうしたらいいのかみんなで相談したりするのも、部活に近かった気がする。勝利を目指してがんばるタイプの運動部ではなくて、文化祭の準備をする文化部だ。シネコンでアルバイトをしている間、文化祭の前日が永遠につづいているみたいに感じていた。

 とても楽しくて、毎日が夢のようだった。

 私は、小説家になりたくて、就職せず、フリーターになった。夢のような日々に浮かれるうちに、小説を書かなくなった。これではいけないと思い、一年半ほど働き、アルバイトを辞めることにした。

『シネマコンプレックス』には、その日々を詰めこんだ。

光文社 小説宝石
2017年12月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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